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□コソコソするから恥ずかしい
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「新八ィ」
「何ですか」
「アレとってアレ」
「はい」
またしても仕事のない万事屋の昼下がり。
アレと言われて的確にジャンプを持ち銀時に渡す新八を、神楽は不思議そうに見つめた。いつもの風景だが、今日は何故か気になる。そのまま新八はやれやれと腰掛け、湯呑みを手に取った。
「新八、銀ちゃんの奥さんアルか」
「ぶはァッ!!」
瞬間、含みかけたお茶を新八が吐き出した。ごしごしと口元をこすりつけながら新八が神楽を睨む。
何を言い出すんだ、この子は。
「図星かヨお前。アレコレで会話通じるの夫婦アルね。マミー言ってた」
不思議そうに目を丸くする神楽に新八は開いた口が塞がらなった。
ふと視線を感じると、暇そうにジャンプを捲っていたはずの銀時が急ににやにやと神楽と新八を見つめていた。
いや、にやにや顔が似合うヒーローって何ですか。
「神楽ちゃ〜ん、わかってるねェ。新ちゃんと銀さんはそういう関係なんだよ」
「マジか!!人妻か!!昼下がりの人妻アルか!!」
ワイドショーや週刊誌でこの手の話題が大好きな神楽が、目をキラキラさせながら身を乗り
出した。
「人妻なァ、いい響きだぜ。何かこう欲求不満〜みたいな?」
したり顔で二ヤつく銀時に新八は軽く殺意を抱いた。
何だよコイツ本当腹立つよ!!
「欲求不満はあんただろうが!!!!」
叫んだ新八がゆらりと銀時の後頭部に狙いを定めた。
その後、スリッパで軽快に彼の頭が殴られたのは想像に難くない。
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「銀ちゃん、夫婦喧嘩よくないアル。新八もドメスティックバイオレンス」
銀時の頭に出来た盛大なたんこぶを撫でながら神楽が呟いた。しかし自分が発端だとは決して思わないのがこの娘である。
「いやいや、神楽ちゃんも便乗して殴ってたじゃん!!むしろ目一杯ボコってたじゃん!!」
そして、銀時のたんこぶはむしろ神楽によるものであるのは言うまでもなかった。
「うるせーな人妻ダメガネぇ!!人妻付いただけで偉ぶるのかヨ!!」
ギャーギャーと三度喧嘩を始める神楽と新八に、休戦中の銀時がむくりと体を起こした。
しかし、何という見慣れた光景だろうか。つーか、こんなんで商売をやっていけるのだろうか。
「あ〜いてェ…暴力は神楽の教育上よくねーよ新八。
こいつの親として」
至極真面目な顔で呟く銀時に新八の顔が真っ赤に染まる。
というか、何なんだこの人。こいつのせいで全然まとまらねぇから!!
「何二人の子供みたいなこと言ってるんスかあんた!!」
ばしっ。
再び銀時の後頭部に響いた音は、彼を今度こそ無意識の世界に誘った。それを見た定春が、さもありなんと欠伸をする。
「銀ちゃんはもう放っとけばいいアル」
「さっ、買い物行こうか神楽ちゃん」
「酢昆布買えヨ!!」
どたどたと慌ただしく部屋を出ていく神楽と新八の足音をぼんやり聞きながら、意識の底で銀時は薄く笑った。
――平和って国とかそんなでけーもんじゃなくて、案外こういうのを言うもんじゃねーの。ヅラもまだ分かんねえのかなァ。
今日も晴れ。何となくまとまったような、まとまらなかったような、いつも通りの万事屋の日常である。
end.