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□OUT OF THE WORLD
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「…お前の口から、聞きたくねェ…」

不意にぽつりと囁いた高杉が、新八の頬に付いた液体を一滴舐める。まだ快感の余韻が残る体は、たったそれだけの行為にも簡単にうち震えた。

「あ…っ、」

だがその意味を聞こうと開きかけた新八の唇は、ついに肝心の言葉を紡ぐことはなかった。
そのまま間髪入れず、高杉から口付けられたからである。


元より拘束されていた少年がそれに抵抗できる筈もなく、

「ん、ン…っ」

ただ為されるがまま、噛み付くような高杉のキスを受ける。鼻にかかったように甘ったるい声が、合わせた唇の隙間から漏れた。しかし僅かばかりの力を振り絞って背けた顎すら、高杉によって強引に引き戻される。

「や、ぁ…ッ…!!」

あまつさえ、もう口を閉じないようにと頬に掛けた指で頬を抑え込まれてしまった。そうやって逃がさないようにした上で、ゆっくりと絡め取られる。

動けなくなった獲物をなぶるようなそれは、口付けというよりはいっそ、捕食に近い行為なのかもしれない。


だが先程自分を殺そうと楽しげに話した男と交わす交歓なのに、それは何故かひどく甘かった。

次の瞬間死ぬかもしれないと恐怖する分だけ、狂おしい程。


甘く痺れるような、快楽。

その先にある、毒。


この先にある闇を確かに感じるのに、新八は何らそれに抗う術を持たない。

「や…っ!」

どこまでも堕ちるようなその感覚が怖く、反射的に男の肩を押し返そうとしても敵わなかった。反対に、深く深く搦め捕られる。熱くて柔らかい高杉の舌先が自分のそれと絡むと、新八は自分でも下半身が重く疼くのを感じた。

絡み合う舌根に、甘くとろりとした液体を感じる。



分かち合うのは、甘く誘う毒か。
それとも、



「んっ……」

突然、ぞくりとした感触が新八の背筋を駆け登った。それに不随して、下腹が熱く痺れるような感覚も。

本能的な恐れに突き動かされてようやく高杉の肩を押すと、微かに舌先を出してニヤリと笑う男と目が合う。そこに滲んだ赤はやはり血の朱色に似て、新八は目の前の光景にくらくらと目眩を覚えてしまいそうになった。

高杉は己の薄い唇をゆっくりと舐めた。

「…テメーの口から、他の男の事は聞きたくねーな」

小さく囁いた男が、新八の体を床へと押し倒す。限界まで伸びた鎖によって張った拘束具が手首の皮膚を擦り、新八はその痛みに顔をしかめ呻いた。とてもではないが、高杉の心を問い返す隙もない。

「い、いた…ぁっ」

裸の背中に当たる床がひどく冷たく、痛い。じゃら、と乾いた音で鎖が床を這う感触も。
それなのに、先程達したばかりの新八の中心は再び立ち上がりを見せていた。それだけでなく、もうひどく濡れて先走りを溢れさせているのが自分でも分かる。

それには当の少年自身が驚きを隠せないようだった。


「…ッ!…何で…!?」

自分の体の変化が恐ろしいのか、新八の瞳は不安げに揺れている。その驚く様が面白いのだろう、高杉はゆったりとした動作で己のひざ頭を使い、少年のそれをゆるゆると擦った。本当にただそれだけなのに、新八の体は面白い程素直に発情の色を濃くしていく。

発揮するように強い歓喜が、腰を中心に集まり始める。

低く囁くような男の声が耳を打った。

「“あれ”の体液は粘液どころじゃねぇ催淫効果があんだってなァ。…今からお前で試してやらァな」

愉しげに高杉が零した言葉の内容にすらついていけず、新八はただただ荒く呼吸を繰り返すだけとなる。男はそのまま、すっかりあらわになった少年の素肌を確かめるようにゆっくりとそこを撫で回してきた。

「あ、んっ…」

まだ愛撫の気配は薄いような触り方なのに、ぞくぞくと鳥肌が立つのを抑えられない。皮膚の感覚はいつもよりずっと敏感に膨れ上がり、そのつけねは全部腰へと溜まっていく。

「あぁっ、や、いやぁ…」

だがそれに恥ずかしさを覚えた新八が左腕で顔を隠しても、高杉は許そうとはしなかった。

「勝手な真似すんじゃねェ」

ひどく冷たく吐き捨てた男が、新八の腕を振り払う。だがその横顔の残忍さに恐れを感じるのに、少年の体は高杉が与える強い快楽にただ酔いしれている。ばらばらになった心と体についていけずに、新八は喘ぎを漏らすことしかできなかった。

「あ…はっ…」

涙を潤ませた瞳で男を見上げれば、無防備になった首筋に噛み付かれる。そのまま痕が残るまできつく吸われ、新八は追い上げられるままに高く鳴いた。


「…鳴ってる、」

『音が』と続け、高杉は新八の耳の後ろから伸びる血管を唇で辿る。“音”とは、頸動脈を流れる血潮の奔流する音のことだろうか。
命に関わるような部位をさらけ出して蹂躙されることにおののきながら、それでも少年の体は素直に欲情していく。

「はあっ、あ…う、」

耳たぶや顎の裏に感じる高杉の髪の感触さえ、堪え難い程の刺激だった。

「あ、…だめ、こんなの…っ」

それでも押し返そうとした新八の左手は、高杉によってやすやすと捻り上げられる。思わず見上げた視界の中で、隻眼の男が不愉快そうに自分を見下ろしているのが分かった。ぎちり、と更にきつく手首を捻られる。

「ひ、痛、あぁっ…!」

「玩具なら玩具らしく、ただ素直に鳴いてりゃいい。ただ、俺だけに。…そう思わねーか?」

くつりと喉を鳴らし、高杉が唇の端を吊り上げる。不自然に捩られた手首が軋む激痛は脳天を突き抜けるようだった。いくら快楽に漂っていた新八の体でも、到底耐え切れるものではない。

これから抱こうという相手の体の痛みすら、高杉という男にとっては意に解さない類のことらしい。


「あ…ぅ、ゆ、許して、下さ…」

しかし新八が右手で縋るように高杉の着流しを掴むと、ふと左腕の拘束は弱まった。そうやって少年の腕を唐突に放した男が、浮き上がった彼の鎖骨を甘噛みする。


「いい子だ」

囁いた声は低くかすれていた。その舌先は新八の皮膚をそっと蛇行し、少年の体の上をなぞっていく。

それが胸の中心までたどり着く頃には、新八の体はもうすっかり先程の熱を孕んでいた。既に辛い程立ち上がった自身は触れて欲しくてたまらないのか、たらたらと先走りを零している。
先程の残忍さが窺える行為とはまるで異なる男の愛撫に、新八は半ば狂いそうな程の快楽を覚え始めていた。

薄く色付き立ち上がったところを爪の先でいたずらに引っ掻かれ、少年が首を振る。

「あ、あぁっ、や、そこいやぁっ…!」

頭を振る度、ぱさぱさと乱れる癖のない黒髪がひどく淫らだった。

「何がだ?…こんなにしといてか?」

いっそのこと塞ぎたい新八の耳に、追い打ちをかけるような高杉の言葉が吹き込まれる。その掠れたような低い音程と、耳にかかる息の熱さに、少年はまた震えた。

「だって、やっ、…そこ、もう…っ!」

育ちきった胸の飾りは痛い程に尖って、うっすらと赤く充血している。それを爪先でやんわりと押し潰し、高杉はそこに唇を落とした。

途端、新八の体が大きくしなる。


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