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□OUT OF THE WORLD
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裸足のつま先が冷たくて目が覚める。

無意識に体を抱くようにして身を縮めると、カチャリと小さな音で金属音が鳴った。手首から聞こえたその音に、ふと意識は覚醒を始めていく。

壁から伸びた拘束具に右手首を捕われたまま、新八はゆっくりと目を開けた。


「う…」

微かな声で呻き、体を更に小さくする。目覚めた途端に感じた寒さは震えへと変わり、少年の体を支配し始めていた。だがその震えが寒さ故のものか、それとも別の感情に起因するのか、新八はもう分からない。

定まらない思考のまま見渡した部屋は、少年の手首を拘束している器具やそれに繋がった鎖と同じく、壁も床も金属で出来ている。その冷たいアルミニウムの床にずっと転がされているのだから、体温が下がって当然なのだろう。それでも、否応なしに体が震える原因がそれだけだとは到底思えなかった。
だが考えても仕方ないとばかりに微かに息を吐き、少年は背中を壁へともたせ掛ける。


(ここへ連れて来られてから、もうどれくらい時間がたったんだろう…?)

ぼんやりとたゆたう思考はもやがかったように濁り、明確を遠ざけていた。はたして今は何時頃だろうかとも考えるが、窓もない部屋では今が昼か夜かすら分からない。その事実に、新八の胸中を黒々とした不安が疼き始める。

もう何度感じたか分からぬ、言い知れぬ不安感。


少年はそれから隠れるようにして膝を抱え、そっと顔を埋めた。目を閉じて、もうずいぶん会っていない気がする懐かしい面々を脳裏に思い浮かべてみる。

「銀さん…」


最初に頭に浮かんだのは、ここに来る前までいつも一緒だった銀髪の男だった。男の姿に不随するように、天真爛漫な少女の顔も思い出される。その懐かしさにじわりと涙が込み上げ、新八は己の膝を抱えた両腕にぎゅっと力を込めた。


(…帰りたい…)

もう既に何千何万とそれを願ったかしれない。だが頭に浮かんだ面々の事を考える内に、疲れと孤独で摩耗しきった新八の心にも溢れるような希望が湧いて来るのが常だった。
それだけが、今の少年にとっての生きる糧だった。


彼らならきっと、と思うから。

(銀さんと神楽ちゃんなら、絶対来てくれるから)


銀時と神楽ならきっと、自分を救い出してくれる。


そう思うだけで、狂いそうになる孤独の中でも何とか平静を保って居られる。失いそうになる自我を保って居られる。

もうすっかり聞き慣れた拘束具の奏でる音が、どんなに冷たく耳に響こうとも。



ガチャリと無機質な音を立てて扉が開かれたのは、その時である。しんとした空間に響いた音は存外大きく、少年は思わず弾かれたように顔を上げた。

もしかしたら銀時と神楽が来てくれたのかもしれない、と一縷の希望を胸に抱いて。


「クク…、まだ自分の立場が分かってねーのかァ?」

だが部屋に入ってきた男の顔を見た瞬間、新八の微かな希望は唐突についえた。少年は殊更強く壁に背中を押し当て、なるべく男から距離を取ろうとする。しかし小さな箱のように作られた部屋では、それも無駄な抵抗の一環であることにはまだ気付く様子もない。


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