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□風味絶佳・参
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―――…

夜明け前の月がはかなく幻想的に照らし出すのは、紅殻で赤く壁を塗られた部屋だった。壁どころか、畳に敷かれた布団や新八の羽織った襦袢でさえ、ここでは深紅の色を纏っている。
その赤い壁に黒々と映える柱や欄間の造りは豪勢なのに、どこか華奢に仕上げられていた。


…だが今、ひどく淫靡なこの場に一つだけそぐわないものがあるとするならば。


「ち、近付かないで下さいいいィィィ!!」

この廓の空気に相応しからぬ、新八のツッコミだろうか。

否、それはもうツッコミと言うより、“絶叫”の感を呈している。


「あ?ふざけんじゃねェ、こちとらそこの天パの倍は金子積んでんだよ、クソガキィ」

こちらも襦袢一枚になった高杉が布団の上を後ずさる少年の足首を掴み、思い切り引っ張った。その反動で新八が仰向けに寝転んだ形になる。

「ちょっ…!」

だが素早く起き上がろうとしたのもつかの間に、高杉によって襦袢を纏めていた帯を抜かれ、あまつさえそれを使って頭上で手首を拘束されしまった。ぎゅっと手早い動作で手首を纏め上げられ、その感触に新八が息を呑む。軽く結ばれただけであるにも関わらず、力任せに捩ってみても、それはただ悪戯に手首に食い込んできたのみだ。


「何するんですか!」

しかし拘束されたとは言え、まだ新八の下半身は自由である。せめてもの抵抗にと足をばたつかせれば、至極悪い顔でニヤリと笑った高杉と目が合った。その独眼に一瞬だけ新八が怯むと、そこを逆手に取った男にそのまま太ももを掴まれ、両足の間に分け入られてしまう。

「や…っ!!」

帯もなくした緋襦袢は形を崩し、ただただ新八の体に纏わり付くばかりの布だ。そこへもって大きく足を開かされ、あろうことか新八は己の下腹部を高杉の眼前に晒してしまった。

いくらまだ立ち上がってはいないとは言えども、さらけ出した花芯をじっくりと見つめられるのは羞恥以外の何物でもない。

「嫌だ…見ないで…!」

堪え難い恥辱に新八がぎゅっと目をつむる。それでもこの状況から逃れられる訳ではなかった。高杉は左手を新八の太ももに掛けて彼の足を開かせたまま、右手でその中心を緩やかに扱いた。

月明かりが照らす男の顔はどこか楽しげに見える。


「あ…、やめっ、…」

新八は思わず目を開き、高杉をきつく睨んだ。それでも彼は手を止めないどころか、さも楽しげに口角を上げたのみである。

「ククク…随分いきがいいじゃねーか。銀時ィ、テメーはこんなん抱いたのかァ?」

再び悪そうな顔で笑って、高杉が濡れ縁に座ったままの銀時に問い掛ける。それに銀時はこちらを見つめたまま、いたって平坦な声で返事を返した。

「当たり前だっつーの、しなきゃテメーのもんになるじゃん。それだけは勘弁」

着物の袂から飴でも見付けたのか、銀時はさっき吸い始めたばかりの煙管をもう放り出している。そうして棒付きの飴をくわえて喋る様子はどこか飄々として、こんな場でも彼は何一つ変わらないままだ。

それに対して、高杉は面白くなさそうに舌打ちをした。

「…チッ、新八は俺が仕込むって決めてんだよ」

言うなり新八の自身に手をかけ、緩やかに刺激を加える。掌全体で包み込むように握られ、上下に扱かれると、新八はたまらずに喉をぴくりと反らした。

「や、ぁ…ッ!!」

その感触にはいやがおうでも覚えがあった。

「ひ、…あぅ、」

新八がまだ禿の頃、この高杉によって散々になぶられた事があったからだ。

だが声を抑えようと唇を噛むほどに、体を渦巻く快感は一段と激しさを増したような感覚があった。ひどく過敏になった神経を、引っ切りなしに擦られているような。

そのまま親指の腹で先端の割れ目をなぞられれば、せつないようなむず痒いような感覚が新八の体の中で弾けた。

「やぁ、あッ…、だめ…!」

小さな子供のように首を振って拒絶する新八の耳元に、高杉が不意に唇を寄せてくる。

「…新八ィ、そういう事言われると男は余計盛り上がるんだよ。覚えとけ」

呟き様にキスされ、唇を食まれた。高杉の舌が少年の柔らかい下唇をつつき、咥内に入り込む。

「んんっ、ン…」

その舌先を噛んでやろうと思うのに、半ば人質のような形で自身を握られている為に上手くいかない。それどころか余すことなく咥内に舌を這わされ、舌根を絡められてまう。

「ふぁっ…う…」

熱い塊がゆっくりと絡まる感触は、行為にまだ慣れない新八の体には圧倒的だった。背徳に似たせつなさに少年の背筋がぞくぞくと震える。

「ふ…」

だが溶け落ちそうになる思考の中でふと視線を感じ、新八は僅かに身じろぎした。濡れ縁に座った銀時がこちらをじっと見つめているのが分かる。
その瞬間、そうだ、と思い直した。

今、自分の様子は逐一銀時に見られている。


「は、あっ、…いや…!」

急激に込み上げた堪え難い羞恥に顔を背け、新八はようやく高杉の口付けから逃れた。それに高杉は至極意外そうな顔をした後、正面に座る銀時を見咎めて『なるほど』という顔をする。男の右目が猫のように細まった。

ぐっと顔を近付けられる。

「…嫌だァ?銀時に見られんのが嫌か?こんなになってる割には抵抗するもんだ」

呟きながら、まるで懲罰を与えるかのように胸の突起をつまみ上げられた。爪が肌を刺す痛みに新八が僅かに顔をしかめる。

「いっ…」

だけれども、少年にとってはそんな痛みなどは問題でない。このままこうやって一部始終を銀時に見られたまま行われるかと思うだけでたまらなかった。考えれば考える程、新八の顔はいよいよ真っ赤に染まっていく。
顔どころか、その首筋さえ、今は夜目にもうっすらと赤かった。


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