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□風味絶佳・弐
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―――…


…吉原、時刻は暮れ六つのたそがれ時。


今夜が新八の水揚げとなる。

一体どんな男に揚げられるのかは分からないが、とりあえずは頑張ろうと少年は思っていた。というか、売られてきたからには頑張らないと。
そんな不思議な使命感に燃える一方、果たして自分が“それ“を成し遂げられるのか否かという不安もある。今、新八の心は千々に乱れていた。





「あっ、新八くん。いよいよ今夜だね。頑張って稼いでね」

いかにも脳天気な山崎の掛け声が耳に痛い。夜見世に備え、店中の者が慌ただしく準備をしている最中である。

「はあ」

ニコニコと人が良さそうな笑顔を見せる山崎に、新八は至極曖昧な返事を返した。

山崎退は、ここ水蜜楼の遣り手である。遣り手とは客と色子の間を取り持ち、色子をまとめる者のことを言う。通常の廓では年配の人間が勤めるのが常だが、残念ながらここでは常識というものが存在しない。

もっとも、くせ者揃いの色子やお客の多いこの廓において、山崎は唯一の常識人と言っていいくらいだ。しかしそれ故に、親切や真心が重荷になることもあるのだが(特に今のような場面で)。

新八の髪を丁寧にとかし、山崎は鏡の中の彼に笑いかけた。


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