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□風味絶佳・弐
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「土方さん、大丈夫かなァ…」

大好物である品物に辛子をたっぷり混入された経緯を憂い、新八がそっと独り言のように呟く。それに対し、沖田は至極不思議そうに彼を見上げた。丸く大きな瞳をくるりと回して新八に向ける。

その仕草は『きょとん』と効果音がつきそうな程に愛くるしいのだが、実際その内面は暗黒に満ちているのが沖田である。

「大丈夫も何も、俺は仕事したまでですぜ。いつまでもあんなマヨ中毒のしがらみに捕われてたら、自由に羽ばたけもしない。新八くんもそう思いやせんか?」

「いや、アンタはいつでも自由ですよ。どこぞの武装警察でも遊郭でも、自由気ままに羽ばたいてますよ」

いけしゃあしゃあと己の正当性を主張する沖田にまたしてもため息を重ね、新八が着物を畳む仕事に戻る。

今、少年達は一枚の仕掛けの前でとつとつと話をしていた。仕立て台に掛けられたその仕掛けは、薄水色の地に淡い桃色の桜が咲き誇り、裾の流水にはらりと花びらが落ちるまでが描かれた見事な一枚だ。美しい様子がよく見えるように大きく広げて仕立て台に掛けられ、初めて袖が通される時を待っている。
今夜、新八はそれを着ることになっていた。

新造が赤い振袖を脱いで仕掛けをまとう理由など、吉原の町なら全て相場は全て決まっている。今夜が新八の水揚げだからだ。

ここ銀時の本部屋で、今夜に迫った新八の水揚げの支度が行われる。傾城の部屋付きの禿である新八はこの部屋で過ごすのが当たり前であるが、沖田に至っては完全にサボりである。
現に先程から忙しく今夜の用意をする新八を尻目に、栗色の髪をした少年は寝そべって団子をほうばっていた。



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