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□闇夜に羽ばたく蟲の名を
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目尻に浮かんだ涙が彼の屈辱と羞恥を物語っていた。
だが助けを乞う訳でもなく、無言でこちらを真っ直ぐに見つめる少年に高杉は奇妙な気持ちを抱いた。


「…妙なガキだな、お前。でも、銀時がハマる訳だ」

それに構わず、痕を付けたところに高杉が爪を立てる。柔らかい肌にぷつりと爪先が食い込み、新八が声を荒げた。

「止めてください!!…こんなこと、」

途端に暴れる新八の体に、後ろから左腕を回した。いくら彼が暴れようが知ったことではない。
このまま攫って、犯してやろうか。

――何でこんなガキにそこまで思う?銀時のもんだからか?…俺も存外人間らしいじゃねーか。


そんなことを考えながら、腕の中で暴れる新八を見下ろした。同時に、見上げていた新八の瞳と視線がぶつかる。何も言わずに高杉は新八を見つめ続けた。


恐怖を煽られたのか、新八が視線を外す。

「お前みたいなガキのどこがいいのかねえ…。昔から掴めねー男だ」

「なら、離して下さい。…僕を煮るなり焼くなりしても構いません。でも銀さんと神楽ちゃんには、手を出さないで下さい」

「ククッ、威勢のいいガキだ。お前を使って銀時を殺すのに、てめーが死んだら元も子もあるまいよ。…まァ、死ぬ前に楽しませてもらうか。銀時のものっていうのが気に食わねえが」

震える声で精一杯の虚勢を張る新八に、高杉が舌を彼の首筋に這わせた。

「!?、止めっ…」

冷たい舌の感触に、新八の背筋が震える。だが振り返って睨んだ高杉の目があまりに冷ややかだったので、新八は一瞬息が詰まった。

――何て目をしているんだ。

何も見ていないようで、全てを見透かすような右目が、自分を見下ろす。


高杉の冷たい隻眼の瞳は闇を思わせた。何も残さず、何も受け入れない黒だ。

新八が凍り付くように動きを止める。

「どーした…?もう抵抗しねェのか」

耳元で囁く高杉を怯えたように見上げる新八の半開きの唇が、何故か艶やかに潤んで見えた。欲しいという衝動が瞬時に高杉の体を駆け巡る。

銀時のものなど、どう蹂躙しようが構わない。

だがそのまま新八の唇を奪おうとしたところで、高杉の動きはぴたりと止まった。

「…銀さん」

唇が触れそうになった瞬間、少年がぽつりと呟く。『助けて』とその唇が動くのが分かった。助けなんて誰も来ないのにだ。

それ程銀時を思っているということか。

途端に、高杉の中のくすぶっていた熱が引いていく。何故かは分からない。ただ、新八が呟いた男の名前にどうしようもなく苛ついた。
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