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□闇夜に羽ばたく蟲の名を
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これ以上騒いだらただでは済まないという無言の牽制に、新八がきゅっと唇を噛み締めた。

「…何ですか、高杉さん。僕を狙っても、何もありませんよ」

「ククッ、お前じゃねェよ。…俺が欲しいのは、銀時の首だ」

不覚の事態に慣れているのか、新八は存外落ち着いているように見えた。だが高杉の言葉には動揺を隠せないようだ。

「銀さんを?!そんな…」

震える言葉が新八の心情を現していた。自分の手の中で怯える少年に、高杉が小さく笑う。嗜虐心を揺さぶられるその姿が心地よい。

ふと何気なく新八の首元に目を落とした高杉は、面白いものを発見した。


「…お前を壊したら、あいつはどうなると思う?」

呟いて、新八の襟首から覗く赤い跡を左の指先で軽くなぞった。こんなところに付けられているなんて、間違いないなく口付けの痕だ。
強く吸い付いて残す、愛情という名の執着心。

高杉自体はそんな気持ちを誰かに抱いたことなどない。だが、少年に印を刻んだ相手が誰であるかなんて聞かなくても分かる。新八自身が気付かないような場所にそれを残した相手の独占欲を垣間見たような気分だった。

自分と居た頃には決して見せなかった銀時の姿に、高杉は心底愉快になった。


どうりでこのガキにやたらと執着する訳だ。こいつを壊せば、面白いものが見られるかもしれない。


「それは…どういう、」

「お前、銀時に抱かれてんのか」

新八の言葉を遮って低く呟く高杉に、彼の顔が赤く染まった。夜目にもほんのり赤い首筋に残った痕に、後ろから一つ口付ける。びくりと震える右手を更にきつく拘束した。

「何っ…」

「あんまり暴れんなよ?…まあ、他の場所に痕が残ってもいいけどな。てめェが銀時に知られちまうだけだ」

途端にきつく吸い付いて、銀時が付けた口付けの痕を自分の痕に変えた。

何故今自分がこんな衝動に駆られるのか分からない。大方いつもの気紛れだろう。ただ、今高杉は新八に自分の痕を残したかった。自分の印を刻み付けたかった。

案外銀時も同じ気持ちなのかもしれない。少年を介して交わる気持ちが皮肉にも似たようなものだったので、高杉は軽い苛立ちを覚えた。

『銀時に知られる』という自分の言葉を受けてか、新八がぴたりと大人しくなる。
自分の感情が分からない腹立ち紛れに、噛みつくように新八の首筋に歯を立てた。

「痛っ…あ、」

切なげに呟く新八の白い首筋に赤く痕が残った。それに少しの満足を覚え、高杉は今度はそこを甘噛みした。唇を噛み締めて耐える新八が、振り返り高杉を睨む。
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