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□風味絶佳・弐
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吉原の桜がはらはらと乱れ散る頃、新八の水揚げは決まった。

禿から新造になり、新八はもう桜色のお仕着せは着ていない。代わりに、新造らしく深紅の振袖を着ている。それは艶やかな質をもっている少年の黒髪にはよく映えるが、もうすぐ花をもがれるという戒めの色でもある。

植わっている桜が全て散り終わるまでに、新八もまた、その花を手折られるのが運命だった―…




…てな訳でィ、姐さん方。楽しみにしてて下せェ」

「何で沖田さんがナレーションしてんの?!」





場所は吉原、廓の一室。通称『本部屋』と言われる、傾城である銀時の自室だ。

主の姿こそ皆目見えないが、今、そこには二人の少年の姿があった。


「ナレーションで場を盛り上げていくのが常套手段でさァ」

「だから何でアンタも裏側知ってるんですか!?」

先程から寝そべって仕事をさぼっている同輩の沖田に、新八が鋭いツッコミを入れる。ツッコミついでに、着物をせわしなく畳んでいた指先をびしりと彼に向けた。

沖田に“注意”を喚起する為である。

「大体沖田さん、土方さんからマヨネーズ買ってくるように言い付けられてるんでしょ?…あの人、怒らせると怖いですよ」

「大丈夫でさァ。土方アノヤローには辛子入りのブツを渡しやした」

「辛子ィィィ!?…あんた、本当に清々しいくらいのドSですね」

はあ、と新八がこれみよがしに大きなため息をつく。しかし沖田がこんな動作を気にかけるくらい素直な人物なら、皆苦労はしないのだ。

『土方』と名が上がったのは、沖田を部屋付きの新造として、禿の頃から面倒を見ている色子の事である。つまりは銀時と新八のような関係の二人である筈なのに、沖田の土方に対する破天荒な振る舞いは日毎に激しさを増しているような気がしてならない。いや、気がするどころではない。


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