戦国への来訪者
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「で、どうして真田殿までいるんですか猿飛さん?」
「旦那ぁ…」
「しっしかし!お館様の治めるこの地を脅かす者がおるなら僅かばかりでも助力できないかと…!!」
「無理です」
「無理ッスよ」
「難しいかと」
「多分無理だよ、旦那」
4人それぞれの言葉で否定されて幸村が石化した。
事の発端はほんの二時間ほど前、今夜が魔物の出現だと特に何の感慨も見せず起床した月宮と白が宿の部屋を出ると……赤ワンコがいた。
そして上に戻る。
「大体さあ旦那、魔物が出るのは夕刻以降だよ?夜目効かないでしょ」
「う、うむ…だが」
「だがもでもも無いの!俺様も才蔵も魔物の相手は骨が折れるんだからね!夜目が利かない旦那がいても不利なだけだから!
「しかしだな!」
「しかしもかかしも無い!」
「……こいつら主従だよな?」
「言わないで下さい」
息k(ゲフン)主人を怒るオカ(ゴホン)従者。
上田では限りなく日常的なその光景に月宮は困惑気味だったが、才蔵の言葉に視線を逸らした。
……苦労、してるんです。
「どのみち真田殿が能力者である以上、ここから離れても別の魔物に狙われる可能性もあります。魔物の相手は元より私と白がするつもりでしたので、忍の2人は主人を守っていて下さい」
「…黙って見てろって言いたい訳?」
説教を切り上げた佐助が瞳に危険な光を宿して月宮を見る。
それに月宮は、口端を嫌味な程綺麗に曲げると嗤った。
「話が早いようで何よりです」
「アン……ッ」
タ、と続くはずの言葉は出なかった。
理由は簡単、瞬きよりも早く白の鋭い爪が佐助の眼球すれすれに迫っていたから。
「忍も似たような所あるかな、って思ったんスけど。撤回する。温い」
「分かったなら余計な手出しせず、結果だけを見ていて下さいね。無駄死にしたいなら話は別ですが」
意識の外側に白がいたとか、そんなレベルの話ではない。
佐助は優秀な忍だ。
それは身内贔屓や主観ではなく、他者からの客観的評価で。
死角でも相手がどんな動作をしたのかくらい分かるし、咄嗟の事に反応できる自信もあった。
それに白がいくら意識の外にいたからと言って、彼は月宮の背後…つまりは佐助の正面にいたのだから。
「依頼は完遂させますが、こちらの注意を聞かずに起こった結果については何もしませんよ。
ゆめゆめ、お忘れなきよう」
クスクスと、笑みを顔に張り付けたまま月宮が嗤う。
それを幸村と佐助は苦虫を噛み潰したように、才蔵は表情には何も浮かべずただ黙る事しかできなかった。
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