戦国への来訪者

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「月にぃちゃん持って来たよ!あと慶次にぃちゃ」

「動くな!」

がら、と木製の扉が開いた直後のコンマ数秒で三者がそれぞれ動いていた。

俺は入って来た小梅を背に庇って。
白は男の肩を押さえつけて。
そして先程まで寝ていた男は、気付の匂いにか覚醒した瞬間に一番非力な存在…小梅に寄ろうとしていた。


「小梅、来てすぐで悪ィが薬持ってすぐに出ろ。他の奴らにも言っとけ、しばらくここに近づくな」

「う、うん…」

「………ッ」

「動くな」


小梅が出て行ったのを確認した後、鋭く睨みながら男へ命じた。
大人しく従うとは思っちゃいなかったからすぐに次の言葉を続ける。


「生きたまま眼球ごと脳ミソ引き摺り出されたくなかったら大人しくしな。答え次第で対応は変わる」

「ハッタリだと思わない方がいいッスよ。布団汚したくはないんスけど、ガキんちょらの安全第一なんで」


鋭く尖らせた白の爪が男の目の縁をなぞる。男がどう思ったのかは謎だがゆるりと肩の力を抜いた。


「何であんたがここに…」

「慶次、知り合いか?」

「知り合いっつーか、風の噂で聞いた事があるだけだよ。伝説の忍、風魔小太郎」

「は、伝説ね」


鼻で笑いいつでも刺し殺せるよう構えたままの白の隣に、男の目の前に胡坐で座る。

慶次は何か言いたげだったが、結局何も言わず俺らから大股で三歩ほど離れた入口脇に座った。



「で、テメェは本当にその伝説とやらで合ってんのか?」


俺からの問いに男はやや黙し、やがて一度頷いた。
そこでふと疑問が浮かぶ。


「何だ、テメェ口が利けねェのか」

また首肯1つ。
面倒くせェモン拾ってきやがって…と八つ当たり気味に今頃は外で遊んでいるだろうガキ共を少しだけ恨んだ。


「はァ…口は動かせんだろ、読唇なら出来っからそれで答えろ。何故この近くで倒れていた?」


『巨大な蛇のような魔物に襲われ、撃退した後に他軍の忍にやられました』


白の予想通り、ってか。
しかし…考えながらまじまじと男を眺めていると居心地悪そうに身じろぎされた。瞳には戸惑いの色。
視線がかち合った事で男はようやく自分が素顔を晒している事に気づいたらしく、慌てて頭に手をやろうとして……
傷が引きつったようで黙ったまま悶えていた。


「実は阿呆だろ、お前」

『…気味が悪く、ないのですか』


ゆっくりと体勢を戻しながら男は問う。

ああ、この雰囲気は覚えがある。
組に初めてやって来た奴らのほとんどが纏っているものだ。


「……悪くねェよ」


周りと違う事の違和、迫害された恐怖、拒絶される事への怯え、そして全てを諦めたような上辺とは裏腹に、傍に在る事を望む矛盾。
言葉と同時に出した手でそいつの前髪をそっと掬った。

覗く双眸は金と黄の中間色のような、猛禽類と似た色。



「お前はお前だ」






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