戦国への来訪者
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「ほう、村に人が戻ったとな…」
「はい。どうやらそれなりに山奥の村らしく、普段なら月に二回訪れる者が来ないので見に行った所潰れていたようなんですが…それが、半月ほど前から再び」
「それも子供ばかり、か」
子供が物を売りに来るのは別段珍しい事ではないけど、毎度一人っていうのは可笑しな話だ。
近くに大人がいる気配も無く、いつも一人で降りて来て一人で売り、売った金で米などを買い一人で戻る。
妖しくは無い、不自然なだけ。
「うむ。佐助よ、その村を調べてくるのじゃ。ただし、穏便にな」
「はいよ、ってね」
罪を犯した訳じゃなけりゃ怪しい素振りを見せた訳でも無い民を捕まえるのは無理だ。それ以前に大将が許さないだろう。
どうやら件の子供は十日に一度くらいの頻度で降りてくるらしいから、それを尾行すればいい。
「…でも何でそんなこまめに?」
「佐助…子供が大人と同じ量の荷を持てる訳がなかろうて」
「あ」
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で、運悪くこうなっちゃった訳だ。
「ねぇねぇ佐助ぇ〜一緒にお団子食べようよぉ」
「あはー、ごめんね?俺様この後に任務入ってるからさー。甘いのは駄目なんだよ」
「えぇ〜」
早乙女華、が俺様の前で可愛い子ぶる女の名前だ。
いや、女というよりは言動や考え方から小娘、って言う方がお似合いか。
いきなり訪れた奥州双竜に引きつられて来たこいつは色々と油断できない奴。
自分は天女だと名乗り俺様や旦那の名前を言い当て、おまけに変な力まで持ってる。
それに…こいつが来てから、武田に出現する魔物の量・質が増した。
忍隊だけじゃ間に合わなくて兵や将が何人か組んで巡回に当たってるくらいに。
まあ、月宮が言ってた通りある程度回数こなして慣れたら効率よくなったんだけどさ。
「まったく…勘弁してほしいよ…」
「佐助ぇ?どうかしたのぉ?」
「何でもないよ、ちょっと仕事が忙しいだけ」
表面上はあくまでも友好的に、にこやかに。
妙な力…俺様達や魔物からの攻撃を一切受け付けず、拙い一振りは地を穿ち、受けた傷は自他どちらも治してしまえる、人ならざる力。
今の所そんな兆候は一切ないけど、どちらかと言えば鬱陶しいくらい友好的だけど、この女はやろうと思えば武田なんて落としてしまえる。
こちらの攻撃は効かないのに向こうのバカみたいな威力の攻撃は通じるんだ、当たり前の話。
「む〜…幸村ぁ、佐助のお仕事もうちょっと減らしてよぉ〜。華ぁ、佐助とも一緒にいたいんだからぁ〜」
「ぬ…佐助、華の願いを叶えてやらんか」
「勘弁してくれよ旦那。大将からの指令に逆らえる訳ないでしょ」
まったく。
これじゃあのいけ好かない傭兵の方が何倍も…いや、口も態度も悪いのに目を瞑れば仕事は超がつく程の一流だし基本的に立場を弁えてるし、月宮の方が億倍もマシだ。
…出て行ってからの音沙汰が一切無いのが不思議だけど。
京で一度それらしき人は見かけられたらしいけど、それ以降ぱったりと目撃例が無くなった。
代わりに囁かれ出したのが“闇月”なる人物。
何でも、喪服のような黒の衣を纏い携えた刃は月のように見えるから、そう呼ばれ出したらしい。
目撃されているのは奥州の南端付近から越後、甲斐から信濃の東まで。
夕刻から夜にかけて現れ魔を退けているとか何とか。
『月宮なのか…?』
通りを抜けていく風が、何故だか冷たく感じた。
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