異邦ノ彼女

□1戦
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ザ―――……ン

遠かった意識が戻ってくる。

ふわふわ、ふわふわ。
まるで波間に浮かぶような錯覚の中で、霞がかった視界がはっきりしてきた。



ザ―――……ン…

波の音がする。

聞き慣れた、けどどこかが決定的に違う音。
重い体を起こして音がする方に視線を向けた。太陽の光が、青い水面に反射して、その眩しさが目に痛い。


「………なんで」


何でアタシはまだ生きてるんだ。
確か海軍に追われて死んだはずなのに。

ここはどこだ。
嗅ぎ慣れた潮の匂い。でもここは違う。

こんなに穏やかな海を、アタシは知らない。



また廻った?一瞬そう考えたけど、違う。
廻ったのならアタシは幼い少女か、いいとこ十代半ばになってるはず。
なのに手足は大人の長さだし、髪も随分と長い。衣服も見覚えがある。


総合評価、アタシの姿は死ぬ寸前(マイナス怪我)だ。


ぽたぽたと頬を滴が伝っていく。

アタシは知らずに泣いていた。



「ああ……」


滲む視界を隠すように手を目元に当てた。

会いたい、会いたいよ。
船長にも、副船長にも、シャンクス、ミホーク、ゼフ、ガープ……挙げていけばキリが無い。

脳裏に皆の顔が浮かんでは消えて、最後は真っ暗闇。



「一体何が起きたっていうんだ…!」


震える肩を自分で抱き締める。

この腕が吹き飛んだ。
胸に穴が開いた。
血が止まらなくて、熱いのか寒いのか分からなくなって、真っ赤で――――


あの瞬間を、死ぬ瞬間を間違うはずがない。


だって何度も“あそこ”で続いてきたのだから。



「―――円が、外れた……?」



回り続けてきた円が崩れた…いや、アタシが円の中から外れた、のか。

どちらにしろ、もうあそこに戻れないのだろう。

そう思ったら、また涙が溢れた。




―――――ここはどこなんだ。



「何処なんだよ、ここは…ッ!」



振り下ろした拳はただ細かい砂を巻き上げただけだった。






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