零崎月織の人間遊戯
□12
1ページ/9ページ
最近、きな臭い。
はっきりした事は分からないけど、何と言うか…
争奪戦だとかで慌ただしいのもある、ちょっと前に起きた事件(銀髪で義手の男だとか)のせいもある。
でもそれ以上に、私の意識に引っ掛かるかどうかの引き際で事が起きているような――
「うーん…友から何も無いって事は、少なくともオンライン上じゃ異常なしって事だよねぇ…」
いやでも、シン曰くあいつは私と同じようにイレギュラー補正があるって言うし。
私のは多分“戯言キャラとのエンカウント率”とかそんなんだと思うけど、あいつの補正がどこにかかっているのか。
容姿とか出生とかも弄ったらしいし、考えるだけアホくさいか。
多分“不干渉”なんだろうけど、シンに聞いても『それ教えるのはルール違反だろ』って。
最初から駄目元です。
「ま、取れる手段は取るけどねー」
携帯を操作してとある番号を呼び出す。
通話ボタンを押せば久しぶりに聞く“兄”の声。
マシンガン並に繰り出される心配の声を何とか宥めて、簡潔にまとめた用件を伝えると彼は「うふふ」と笑った。
「うん…うん、やり方はそっちに任せるよ。日付は後々知らせる。……ああ、それもいいかもね。―――じゃあ、よろしく。双兄」
通話を一旦終了させ、今度はまた別の番号へ。2コールで出てくれた。
いっそ事務的な程簡潔な彼女にも説明し、協力を取り付ける。
ほとんど二つ返事だったけどそれでいいの?と聞いたら「貴女を疑うだけ無駄ですから」って。
…信頼されてる、って事でいいんだよね?
単純って意味じゃないよね?
通話終了を知らせる画面を見てゆるりと口端を上げた。
「少しずつ絡め取ってあげるよ…覚悟しておいてね、姫屋真貴」
子荻ちゃんとこっちの顔合わせ(前話での来訪時)も済んだし、“実行部隊”の準備も着々と進んでいる。
薄暗い部屋に私の押し殺した笑い声だけが響く中、部屋の扉が細く開いた。
「また何か企み事ですか?」
「ああ、骸。やだなぁ、企みだなんて。仕事のついでにね、パーッと」
「パーッと?」
「祭ってやろうかと」
祭る、はもちろん普通のお祭りなんかじゃない。
血祭り、要は皆殺しとか虐殺とかそんな意味合いだ。
骸は笑みを絶やさず、むしろ恍惚とした表情で告げる。
「クフフ…僕は貴女に仕える一介の下賤な奴隷。貴女の命令ならば何なりと応えましょう」
「それもいいけど…何か用事があったんじゃないの?」
「ああそうでした。夕飯の支度が出来ましたよ」
椅子に座る私の足下に跪きながら、骸はひどく優しい笑みを湛えて言う。
私が指で骸の唇を辿れば、先を期待しているのかうっすらと頬に赤みがさした。
…敢えて言おう、エロいと。
「…じゃあ夕飯が終わったら、クロームに稽古つけなきゃね」
「っぁ…」
指を離した瞬間、骸から上がった声に一層笑みを深くした。
まだ跪いている彼の頬から頭部へと手を這わせ、オッドアイを見据えながら言う。
彼にとっては甘い甘い、蜜のように絡み付いて離れない毒のような言葉を。
――何て、ね。
「お楽しみは後にとっておくものでしょ?心配しなくてもちゃんとあげるよ」
それに頷くのは一介の下賤な奴隷。
―――破綻しかけている物語ならば、いっそ清々しいまでに狂わせて。
壊れてるなんて、誰にも言わせない。
――――
別段、えっちぃ事を期待してる訳じゃありませんよ骸さん。
ただ愛でられたいだけです。