戦国への来訪者

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side:月宮

霧隠に治療してもらい、疼くような痒いような感覚をやり過ごしていると地響きみたいな足音が近づいてきた。

こんな風に走ってくる奴、ここには1人しかいねェ。


「月宮殿!」

「…何ですか、真田殿」

「そなたはもうすぐ出て行ってしまうのであろう?その前に一度手合せを願いたく!」

「…手合せとはいえ貴方に武器を向けると煩い輩がいるのですが」


ンなの迷彩のオカンに決まってるが。
言外にかつ遠回しに拒否すると、真田は分かりやすく頬を膨らませた。

いい年こいてガキみてェな事すンな気色悪ィ。



「しかし…」

「私は我が身が可愛いんです」


ぶっちゃけ今すぐにでも出て行きたいが、既に昼を過ぎたこの時間に出て行けば怪しまれる。

余計な騒動は御免だから留まっているだけで、俺にも白にもここの奴らと慣れ合うつもりなんて微塵も無ェんだ。



「ならば…佐助ェ!さぁすけええええぇ!!」

「はいはい、聞こえてるってば旦那ぁ。何か用ー?」


真田がいきなり怒鳴ったかと思えば降ってくる迷彩。

言っていいか、どっから湧いた。
(人を虫みたいに…! By佐助)


「某は月宮殿と手合せしたいのだ!口出しするでないぞ!」

「は…って、はぁ…ま、いーけどさ…くれぐれも館は壊さないでよ?」

「承知!」


さあこれでどうだ!と言わんばかりにキラキラとした眼差しで俺を見る真田に…何故だか向こうのバカを思い出した。

ちなみに馬鹿は馬鹿でも救いの無い馬鹿だ。



「…分かりました、ただし真剣は使いませんよ?」

「うむ!さあ道場へ参りましょうぞ!!」

「あはー、俺様も見に行こっかなー」


わざとらしく言った所でテメェの目的は俺の監視だろ。
そうは言わず、一度深く息を吐きながら赤い背中を追った。




*****



相手は二槍、こっちは一刀。

別に刀じゃなくても何ら問題は無いが、こいつらの前で俺は刀と小型の暗器しか使ってない。
それなら木刀を選んでおいた方が無難だろう。



「旦那ー婆娑羅は使っちゃ駄目だよー」

「分かっておる!」


そんな会話を横で聞きながら数度木刀を振ってみる。
―――軽い。



「なァ、もっと重い木刀って無ェか」

「それ鉛も入ってて大分重いやつだと思うけど?」


これで重いのか…まァ、見るからに一般兵用の量産品だし。
しょうがない、うっかりすっぽ抜けないようにしとけば平気だろう。


「それじゃ…初め!」

「天・覇・絶槍!真田源次郎幸村、参りまする!!」

「………お手柔らかに」



いきなり名乗りを上げられ戸惑いつつも突進からの突きを捌いて流す。

勢いが強すぎたせいか2歩ほどたたらを踏んだ真田は、無理やり体勢を捻じって逆袈裟に切り付けてきた。

それを後方に下がってかわし、今度はこちらから仕掛ける。
奇襲紛いの事はやめておくか、と頭の片隅で考えて相手の至近距離にまで間合いを詰めた。


切っ先がこちらに向いた状態でいきなり間合いを詰めるとは思っていなかったんだろう、真田の両手はやや伸びていて引きが甘い。
代わりに俺の手中の木刀は切っ先が上を向いたままだ。


ビタッ


「………な」

「勝負あり、ですかね」


寸止めした状態で試合終了を告げ、相手の気迫が緩んでから切っ先を額に軽く当ててそこから離れた。

手応えねェな。






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