戦国への来訪者
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まだ夜も明けきらない内に佐助と天音は出立の準備を整えていた。
まだ眠そうな政宗と、これから畑に行くのか野良着の小十郎以外に見送りはいない。
「じゃーな」
「おう…くぁ」
「政宗様…」
欠伸を漏らす主を小十郎が諌めるもあまり効果は無いようで。
眠りの淵という訳ではないがだらしない姿に、伊達のオトンは胃が痛むのを感じたとか。
「はぁ…月宮も達者でな」
「…ああ。悪いな、服まで貰ってよ」
「それくらいどうって事ない。古着だしな」
昨夜、報酬と餞別だと言って渡された中には政宗と小十郎2人のお古らしき着流しや袴もあった。
常にチャイナでは目立つだろう、という判断だが当人はあまり気にしていない。
貰える物は貰っておく、と受け取りはしたが身に着ける事はあるだろうか。
「もういい?」
「ああ。息災でな、2人とも」
タ、タンッと地を蹴る音が2つ鳴れば、もうそこには誰もいない。
天音が高い身体能力を有すると分かっている2人はその場を見送り、城の方へと足を向けた。
*****
ところで走り去った2人は。
「俺様について来れるとか…あんたマジで何なわけ?」
「ちょっと特殊な環境で育っただけの傭兵だ」
「それが信憑性ないんだって」
「これ以外に説明の仕様がない」
木から木へと飛び移りながらそんな事を言っていた。
天音にそんな気は微塵も無いものの、仏頂面にも見える無表情と平坦な声音のせいで佐助はやりにくさを感じていたり。
「あ、そうだ。俺に依頼したいって魔物だけどよ、何か特徴とかあるか?」
「―――何さ、いきなり」
「特徴とかあるなら罠かけるなり何なり対策立てられるから」
正直、以外だった。
それが佐助の正直な感想である。
己が主である真田幸村ほどではないにしろ、考えるより先に体が動くイメージがあった天音の口から罠や対策なんて言葉がでるなんて。
…と佐助は勝手に考えているが、ぶっちゃけ彼の思い込みである。
どちらかと言えば頭より体が出る天音だが、あくまでもどちらかと言えば。
でなければ不測の事態に冷静な対処など出来る訳も無いが、そこはまた別の話。
「俺様は直接見てないんだけど…影を操るんだってさ」
「影を?」
「そう。自分の影から武器を出したり、相手の影を操ってそいつを拘束したり」
「…単独なのか?そいつ」
「それが分かんないんだよ。目撃されたのは数度あるけど報告全てで形(ナリ)が違う。でも攻撃法だとかはほとんど同じだから、一応共通犯として見てるけど…」
「ふーん…」
何か心当たりがあるのか、と佐助が期待するも束の間で『とりあえず見て判断する』と言われた時、結構本気でこいつ刺していいかなどと思っていた。
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