戦国への来訪者
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「ってェ…いきなり何が…」
軽く頭を左右に振りながら視線を上げる。
見えた光景に、絶句した。
「おいおい…何の冗談だよこれ…」
確か俺は今日、久しぶりに虎じぃと稽古して夕飯作っから何か仕留めて来いって言われて、時期的に鹿が美味いと思ったンだ。
現に手には罠に使おうと思って引き千切った蔦が握られている。
なのに…
「何で北部にいンだ…?」
虎じぃの住処は西部の辺境、密林の奥地なのに。
見渡しても360度、北部特有の針葉樹と広葉樹の混合林だけ。
ぐぎゅるるる…
「…とりあえず飯だな」
考えンのはそっからだ。
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兎を2羽仕留めて焼いて喰った。ごちそーさん。
「さてと…どうすっか」
ここが北部のどの辺りかは分からねェが、これだけ木が生えてるって事はやや中央部寄りだろう。
て事は氷雨(ヒサメ)か凍雲(イテグモ)が近い。
「…出来れば氷雨がいいな」
歓迎はされなくとも事情を言えば一宿一飯、もしくはどっちかくらい恵んでくれるだろうから。
だが俺の考えは根本から間違っていた。
それを知るのはもっと後の話だ…
「貴様どこの者だ!」
とりあえず林を抜けようと足を進めていた俺にかかった声。
そちらを向いてまず目を引いたのは青い羽織りだ。それもかなり鮮やかで濃い。
氷雨は水色、凍雲は薄紫のハズなのに。
「…少々、道に迷っていてな」
迷いながらもとりあえず誤魔化す事を選んだが、
「ほざけ!怪しい奴めが!」
羽織りの相手はハナから聞く耳を持たず斬りかかって来た。
聞いた意味ねェだろ、と心中で毒づき上体を低くして初撃をかわす。そのまま足払いをかけたらあっさり引っかかった。
…おかしい。かなり、本格的に。
「…おい」
「な、んぐっ」
「正直に答えろ、返事は肯定か否定かしか認めん」
マウントポジションを奪い短刀を突き付ける。
嫌な予感は増すばかりだ。
「ここの領主は男か」
肯定。
「ならジジィか」
否定。
この時点で俺の知る北部じゃない。
「…テメェは正規軍か、否か」
怯えながらも困惑する相手に思わず眉が寄る。
「傭兵なのか、と聞いている」
否定、それもかなり全力で。
「なら―――」
「PHANTOM DIVE!!」
「筆頭!!」
視界の端に映った光と肌を焼くような危機感覚に任せて飛びのき、新たな相手を見やった。
さっきの奴よりさらに鮮やかな青い羽織り、三日月の前立ての兜、若い顔には不釣り合いにも見えるゴツい黒の眼帯。
それに筆頭、ね。
「いつまで経っても来ねぇと思って来てみりゃ…うちのモンに何の用だ!」
「おいおい、確かに押し倒して短刀突き付けたのは悪かったさ。だが俺は道に迷ってうろついていただけだ。聞く耳持たずに先に手ェ出したのはそっちだぜ」
短刀を袖に仕舞い、わざとらしく両手を上に上げて説明してやった。
眼帯は先の奴に目線をやっていたが、そいつが小さく頷いたのを見ると構えていた刀を自分から仕舞う。
……どうなってやがる。
「…嘘は言ってねぇようだな。OK,いいぜ。街道までなら案内してやる」
「―――さーんきゅ」
「お前…発音はなっちゃいねぇが、南蛮語が分かるのか!?」
「あ?南蛮…まあ、一応は」
南蛮とは、また古い言い方だな。
それに…羽織りの色に気を取られてたが、こいつらどっちも着物に具足っぽい。
そりゃ珍しい訳じゃないが…兜に具足ってのは少しばかり古い格好だ。
「Ha…それも南蛮のか?interesting.(面白い)」
「冗談は止めてくれ、チャイナなんてありきたりだろう。そりゃ多少は改造してるから珍しく映るかもしれねェが」
「Ah?」
「ん?」
まただ、何かがおかしい。
互いにちょっとずつ誤解してるような。
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