戦国への来訪者
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『選択を、違えるでないぞ』
去り際に虎じいから言われた言葉が頭から離れねェ。
結局、俺は弥七の眠る家の戸口辺りに座って夜を明かしていた。
「…天音、様」
「……何が、正解なんだろうなァ」
ストン、と白が俺の隣に腰を下ろす。
ふわふわと風に遊ぶ白髪を頬に感じながらぐるぐると纏まらない頭に苛立った。
「始めはただ、俺がいなくなっても生きて行けるように、それだけ教えるはずだったのに…いつの間にか、こんなに俺の近くにいて、さ……」
「やっぱり弥七、は…」
「あァ…あいつらの、バサラとかいう方の力かもしれねェけど…」
それは違うと思う。弥七のあの力は、俺達が…俺と白がよく知る方の異能だ。
原因として考えられるのは――
“俺”という存在の近くに居過ぎた、魔物の肉を…瘴気を溜め過ぎた、辺りか。
このままの生活を続ければそうせずに弥七は能力に目覚めるだろう。そうなれば待っているのは……畏怖か、迫害か。
ここにいるガキ共ならあり得ねェが、他の奴らは違う。
どの道、この集落で一生過ごすのは無理なんだ。
「…どう、するんスか」
「選ばなくちゃ…だろうな。いや、この場合は選ばせる、か。――どっちを選んでも、結局は何かを捨てる事に変わりはねェが…」
「天音様…」
なァ、虎じい。
アンタは……こうなる事を、知っていたのか?
知って…いや、分かった上で……俺が、この世界に残る事を、許可したのか―――?
「…白」
「はい」
「悪ィ、少しだけ…こうさせてくれ…」
「……天音様が望むなら、いついつまでも」
俺より幾分小さい体躯を両腕の内に入れて抱き締める。
身を任せるまま抱き返す白は、いつ頃か忘れたくらい昔に枯れたはずの涙を思い出すほど……酷く優しくて、温かかった。
*****
「大事な話がある」
弥七も目覚めた朝、俺はガキ達を集めて正直に話す事にした。
出来るだけ分かりやすく噛み砕いて、俺がそう遠からぬ後に“向こう”へ戻る事(俺が異世界から来た奴ってのは最初の方でもうバラした)、直に魔物を狩れなくなる事、ガキら12人でこの村に住み続けるのは不可能な事……
ここを離れ、それぞれ別の土地で暮らさなきゃならねェ事。
「移住の話はこれからあちこちに話を付けるが…最後に決めるのはお前らだ。望むなら俺が帰る時、一緒に“向こう”へ行くって選択肢もある」
まだ幼い葵(6歳)や善吉(4歳)はよく分かってなさげだったが、少なくとも今までのように暮らしていけねェ、って事は分かったんだろう。
瞳に不安を覗かせていた。
「……にいさま」
「何だ?花蓮」
「私達は、にいさまのお邪魔となっているのですか?」
「それは違う」
手をきつく握り締めながら問う花蓮に即返す。
もう少し上手く口が回ればいいと思いはするが、無い物ねだりしても仕方がねェ。
「俺は…どうあっても異質だから、な。お前らと出会ったのは偶然だが、あの時会えてよかったと、心底思ってる。お前らは紛れも無く俺の身内だ」
「…っにい、さま」
涙を浮かべて抱きついて来た花蓮に触発されたように、他のガキ達も一斉に抱き着いて来て思わず尻餅をつきそうになった。
敢太は気恥ずかしいのか少し迷っていたが、割とすぐ飛びついて来た。
自分よりも高めの体温達に囲まれてほんの少し、目を閉じる。
体温と共に連想してしまったアカは見ないフリをして。
「とりあえず山の麓にある小屋に移るぞ。明日までに荷物まとめとけ」
さあ、明日から超特急で全国行脚開始だ。
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