戦国への来訪者

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『本当の天女なら旦那達を助けてよ』

佐助の言葉でその場の時間が止まった。
結界の外にいる4人は興味無さそうに(約1名面白そうに)見ているだけで、特に何かしようという気配は無い。


「さ…すけ……?」

「“最強補正”っての?あるんでしょ?この結界か、拘束だけでも壊してよ。旦那の手当てが出来ない」


『おや…これはこれは』


身動きが取れずとも強い眼差しで少女を見る佐助に、黙って見ていた泪の口端が吊り上がる。
面白いモノを見れた、そう目が言っていた。


「で、でも…」

「さっき言ってたじゃん、天女サマは最強だから“こんなもの”壊せるんでしょ?それに、天女サマは癒しの力も持ってたじゃない」


補足しておくと、佐助は彼女がこの拘束を解けるとは微塵も思っていない。
万が一本当に壊してくれたらそれはそれで結構だが、一番は化けの皮を剥がす事だった。

政宗と小十郎の眼差しの変化に気付いた佐助は、不利な賭けだと思いつつも早乙女に揺さぶりをかける事で暗示を解こうとしていた。



「――――そ、そうよ!華はぁ、最強の天女なんだk」

言葉は続かなかった。


「ごほっ…」

「ぇ――――」



早乙女の目の前、空から降って来たのは黒いマントを纏った、見た目は優男然とした十代半ばの少年。
黒と銀のオッドアイは半分閉じられていた。


「ああ……もう終わりますね」


泪の言葉通り、あちこちに出現していた歪みは今や一つも残っていない。
魔物の群れも数える程度にまで減り、さっきまで戦っていた何人かは片付けを始めている。


「か、み…さま……?」

「終わりだ、黒玄院」


吐血に口周りを赤黒く染めながら、それでも何とか立ち上がる黒玄に天音の声がかかった。

2人の姿はどちらも赤黒い。
黒玄の右足は不自然な方向へ曲がり、天音の左肩は妙な位置から動いていなかった。


「……どうして、駄目なのかなぁ…僕は君の事が大好きで、君に僕を好きになってもらいたかっただけなのに…」

天音の右手が上がる。鉤爪にも似た刃が黒玄の首を挟んだが、彼は何もしなかった。

―――怯える事も、気丈に振る舞う事も、命乞いをする事も。
何もせず、悲しそうに眉を下げていた。


「――言い残す事はあるか」

「…最後に、一つだけ」


「かみさま」

すぐ後ろの早乙女になど目もくれず…否、端から彼には目の前の人物以外などどうでもよかったのだろう。
事の成り行きをただ見つめる周りを気にする事無く、黒玄は力なく笑って言った。


「僕は…黒玄、冥王って…いうんだ…君の名を、聞いていいかい…?」

どんどん力が抜けていく体を、気力だけで奮い立たせる彼―――冥王を、ただまっすぐに見つめて。

天音は、静かに告げた。


「俺がテメェに名乗るのは月宮。それだけだ」

「―――そ、かぁ…」


『ざんねん』


声にもならない吐息を零し、静かに。
黒と銀の双眸を消した彼から、紅い噴水が上がった。






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