戦国への来訪者
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「この喧嘩買ってやンぜ、黒玄!!」
黒玄院に刀を向けて、その場の全部に宣言するように吠える天音。
未だ宙に浮かんだままの黒玄は優男面に不釣り合いなギラついた目を隠そうともせず、天音に向けたままだ。
「ご主人が殺れってんならもちろん俺も」
「慶次と小太郎は手筈通り頼むぜ!」
「あいよっ」
「(是)」
返答と共に離れていく二種類の“風”。
彼らにはこれから現れるだろう魔物の取りこぼし処理を頼んである。
……が、それは必要以上に関わらせない為、でもある。
「ついでだ、ここにいる“有力者”は皆殺せ!月君は五体満足の半殺しに留めろよ」
両腕を広げた黒玄がそう宣言した途端、その銀色の瞳が輝いた。
同時に急速に広がっていく歪みに天音から思わず舌打ちが漏れる。
「どうなってんだ…?月宮は黒幕じゃ…」
「どこのアホがんなホラ吹いたんスか」
「白…?」
「大方そこの売女(バイタ)に踊らされたンだろ」
「つか臭いんスけど。鼻曲がるっつーか吐く」
うげえぇ、と鼻を摘み舌を出す白は鼻がいい分余計にキツいのだろう。ある程度離れている天音にも(忍並の感覚とはいえ)届くくらいなのだから。
―――天音に彼らを…特に早乙女を守る気は更々無い。
しかし蒼紅主従の事を黒玄は“有力者”と言っていた。わざわざ術式をかけた早乙女を接触させたのも(接触したい彼女を利用したのも)何か理由があるのだろう。
ならば―――
「不本意だがテメェらを守る事になりそうだ」
不本意との言葉通り渋々と4人を背に隠すように抜刀する天音は木々に隠れて見え辛い太陽の位置を見やる。
陽はまだ高い。ならこのまま殺るしかないが、術符付きの暗器は全て慶次と小太郎に持たせてしまった。
元々数は無いが失敗だったか…そこまで考えて考えを消した。
優先すべきは効率よりも生き延びる可能性。
それも自分が“守りたい”対象の、ならば言わずもがなだ。
勿論、負ける気など欠片も無いが……
「流石に、面倒だ」
広がり続ける歪みからは次から次へと魔物が湧いてくる。
元を絶とうと歪みを壊そうとしても群がる雑魚が多くてまともに当たらない上、黒玄の魔力供給ですぐ再生してしまう。
なら本体から、と思っても魔力で結界でも張ってるのか届きはしなかった。
「持久戦、ッスか」
「出来れば避けたい手段ではあるな」
天音達の体力か、黒玄の魔力か。先にそれが尽きた方の負け、とかは出来るだけ考えたく無いのが本音だ。
理由は簡単、『かったりィ』
「く…!こうなれば某も華殿を守る為助太刀いたす!」
「Ha,月宮は気に食わねえが俺のhoneyを守る為なら手を貸すぜ!」
「政宗様の背は俺が」
ジャキッ、なんて効果音が付きそうに各々の武器を構えた蒼紅達が粋がって吠える。
天音は溜息一つ、迫って来た腕を斬り飛ばし、脳天に蹴りを入れるついでにそれを踏み台にして彼らの眼前に移動した。
「わっっっかンねェかなァァァァァ?テメェらじゃ役に立たねェから端から度外視してンのによォ。『助太刀』?『手を貸す』?要らねェ世話だくたばれ」
「なっ…あんた、いくら自分gッ」
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