戦国への来訪者
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ようやく…ようやく会える…これから始めよう、僕と君が新たな祖になるんだ…
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天音が浅井夫婦と出会って別れた数日後。蒼紅主従は早乙女華を連れて京に来ていた。
“闇月”の1人である慶次の主な滞在地であり、“闇月”の拠点でもある件の村のすぐ近くへ。
近くに信玄が気にしていた村がある事は知っていても、村と“闇月”と月宮が繋がっていると佐助は気付いていない。
“闇月”と月宮はほぼイコールで繋がっていても、肝心の村と分かっていなければ…
「にぎやかだねぇ〜」
「俺もあまり来た事はねえが、ここは大体こんな感じだ」
「華殿、この先に甘味処がございます故…」
「Hey真田、てめえ抜け駆けとはいい度胸じゃねえか」
「なっ某はただ華殿がお疲れではないかと…!」
こいつらもう終わりかもしれない。
能天気に騒ぐ馬鹿共(内一名は己の主)に佐助は結構正直に思った。
けれど不思議なのは町の様子だ。
魔物の被害を受けた多くの町や村が陰鬱とした空気を纏っていたのに、京の町は普通…魔物が来る前と大して変わらない。
建物も外れは多少壊れていたものの大した事は無いだろう。
「あらぁ、あんさんら旅のお人?」
「ああ、うん」
「ふふ、びっくりしたでしょう。京にはね、慶ちゃんもいるし闇月様も来てくれるんよ」
「闇月!?」
「知ってはるん?なら話は早いわぁ、闇月様はいいお人よ。どこにいるか分からない、ってお供えする人までいるんやし」
しゃなり、と嫌味でない程度にしなを作る女性に問い詰めたい気持ちを押さえ、佐助は礼を言って大分先に進んでいた主人達を追いかける。
疑問は尽きないが一つだけ確かなのは、ここは“闇月”に近い場所、という事。
“闇月”がただの親切で魔物を斬っていないのは亡骸から奪われている爪や牙なんかが物語っている。
『まずい…本当に闇月ってのが月宮だとしたら、見つけ次第に攻撃するかもしれない…ッ』
月宮が殺される事に関しての心配は特にない。
酷いようだがそれが佐助の本音だ。
仮に殺されても甲斐には魔物の扱いに慣れた者がそれなりにいるし、生きながらえても垣間見た性格上、個人にやり返す事はしても腹いせに住民を襲うとは思えない。
佐助が何より心配しているのは―――
『月宮に刃を向けたら俺様だって旦那も右目、竜の旦那も全員……殺される』
刃を向ければ月宮は自分達を殺すだろう。
自分が生きる為に、殺される前に殺す為に。
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