戦国への来訪者

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翌日。

日の出と共に起床した天音は教えてもらった井戸で顔を洗い、布団を片付け身支度を整えて―――暇していた。

鍛錬しようにも勝手に出歩くのもなァ、と思って自粛したらこの結果である。

つーか怪我はいいのか。


「月宮様、よろしいでしょうか」

「ああ、起きている」

「失礼いたします…あら、お布団まで」

「早くに起き過ぎたからな、支障なければ秀吉公か竹中殿に会いたいんだが」

「その事で言伝を預かっております。秀吉様が朝餉を共に、と」


意外な展開にしばしキョトン、としていたがすぐに気を取り直し了承の返事をする。
女中について行きながら考えるのは依頼の事だ。

面倒くせェ、と心中でぼやくのは相手の性質が分かっているから。
出来れば相手したくない類である。



「こちらでございます」

「ああ、ありがとう」


そそくさと離れる女中に首を傾げながら中に声をかける。
秀吉の入室を許可する声が聞こえたので障子を開くと、何だか妙な場面に出くわした。


上座に腕を組んで座る秀吉、彼の隣に優雅に正座する半兵衛、ここまではいい。何で半兵衛の正面に座った三成はガッチガチに緊張しているんだろうか。
秀吉の正面に置いてある空の席はまさか自分の席なのか。

そんな事を2秒かそこらで考えて、突っ立ったままなのもどうかと思い中に入って障子を閉める。



「座るがよい」

「…あの、秀吉公の正面ですか?」

「不満か?」

「…いえ」

『あ、この人絶対ェ引かねェわ』


すぐに理解して横からの視線はスルーしつつ正座する。
多分三成は秀吉の正面に座る事を無礼と言いたいが、その当人が言った事なので反対できない…と悩んでいるのだろう。

その葛藤はある意味真っ当である。


正座した時にヒビが入った足から何か嫌な感じがしたが、気にしないでおいた。
(よい子…もとい、普通の人は真似しないように)



「朝餉の後すぐに刑部の元へ向かう、異論は無いな」

「勿論」


むしろ食べないうちに引っ張って行かれるかとも思っていたのだが、それは置いといて。
何だろう、斜めからの視線が熱い。

熱いっつーか痛い。ビシバシ刺さってる。



「あの…竹中殿、何でしょうか」

「躊躇いが無いな、と思ってね」


またこれか、と天音は胸中でうんざりと呻くがお国柄というか情勢を考えれば仕方がないとも言える事で。
漬物をパリポリと咀嚼してから口を開いた。


「例え可能性でも魔物に対処できる相手をみすみす毒殺するとは思えませんので」

「肝の据わった人だね、君は」

「褒め言葉として受け取っておきます。ところで石田殿」


ビックゥ、と肩を揺らした三成は3人の視線が向く中、往生際悪く顔を背ける。
そんな彼の膳は汁物と前菜、それから飯が半分程しか減っていなかった。


「わ、私は小食なのだ!」

「それにしても少なすぎます、無理にでも食べて下さい特に米」

「米を?何故だ」


三成の軽く3倍はたいらげて茶を啜っていた秀吉が問う。
それに天音が答える前に半兵衛が言ってくれた。彼は秀吉と比べれば少ないがそれなりの量を食べ終えている。



「古来から米は清浄な物とされているんだよ。神事に米を使うのは邪気を払い場を清める為…で、合ってるかな」

「はい、概ねその通りです。2人同時に対処するのは骨が折れますので、石田殿には出来るだけの予防線を張って頂かねば」


結果、三成は出された米と汁物は完食した。
それに半兵衛が本気で感動していたのを見て、天音は彼の食事情を垣間見た気がしたとか何とか。






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