戦国への来訪者

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ほらよくあるだろ。
ちっさいガキが捨てられていた動物を拾って来て『ねえ飼ってもいいでしょ?』ってワンシーン。

それは時代や世界がぶっ飛んでいてもあるようで。


「ねえ助けてあげてもいいでしょ?」

「………そう思うなら襟首から手を離してやれ、窒息しかけてるぞ」


ただ、拾われて来たのは“人間の男”だったが。



*****


なし崩し的にここのガキ共の面倒を見始めて早十日。
今じゃ全員の顔と名前を覚えてあいつらも俺に懐いちまった。

そんな折、森に仕掛けた罠を見に行った奴らが持って(引き摺って)来たのは人間の男。
白黒の体にぴったりする衣装は忍服という物か。顔は頑丈そう且つ重そうな兜を目深に被っていて見る事は叶わない。
わずかに覗く赤毛に置いて来た“妹”を思い出してすぐ拭った。


「んー…人間、つーか忍同士で殺り合った後に魔物に襲われた、って所か」

「近くにね、これ落ちてたよ」

「ウワバミの鱗…って事は近くにいるな。白!」

「仕留めたら持って来た方がいいッスか?」

「おう。有り得ねェとは思うが気をつけろよ」

「了解ッス!」


白に指示を出し、連れて(引き摺って)来た奴らには水やら薬草やらの準備を頼んだ。
血濡れるがしょうがない、と諦めて俺はそいつを担いで近くの家へと向かう。

先に布を敷いてそこに男を転がすと、血に混ざって別の匂いが鼻をついた。
ウワバミのではないこの匂いは―――


「チッ、毒か」

「どうするの?」

「自然毒なら口で吸い出すのが一番いいんだが、こいつのはちょっと厄介だな。毒ってより痺れ薬みたいだし、気付薬でも飲ませるか」

「あ、あれ…?」

「そうだよ。持って来てくれるか」


味と匂いを思い出したのか泣きそうな顔をする小梅にそう言えば、微妙な顔のまま頷いて出て行った。
見ず知らずの相手と言えど、あの薬を使うのか…と目が語っている。

まァ、俺もよっぽどじゃなけりゃ使おうとはしない。
常人より鼻が利く俺や白にはあの匂いだけでも十分だ。


「…忍なら匂いでもいけるか?」


それはそれで考えておこう。飲ませるのは最終手段で。


待っている間、横たわる男をまじまじと観察してみる。兜は早々に脱がせて脇に置いた。

黒髪黒目が主流らしいこの土地では珍しい赤毛。
隈取のような色粉が塗られた顔は骨格もしっかりしていて美丈夫と呼んでいい顔立ちだろう。
目は開いた所を見ていないから何とも言えねェが、閉じた瞼の形から切れ長だと想像した。


「ご主人ー」

「あ、白?早くね?」

「それが、ウワバミはもう死んでたんスよ。多分ウワバミと鉢合わせてから他の忍と殺り合ったんじゃないかと」

「そのウワバミは」

「忍の毒が回ってたんで置いて来たッス」


男を挟んで反対に座り込んだ白の台詞に考える。

ウワバミは頭も弱く行動も単調だから俺からすりゃさして苦労はしない相手だが、3メートルは優に超す体長と大の男の腕並に太い牙、それに猛毒を持つから油断はできない。



それを倒したって事は―――






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