戦国への来訪者
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『何故邪魔ヲスル!』
『肉ヲ喰ワセロ!』
「ギャアギャア煩ェんだよ鳥頭がよォ。この面倒な事態引き起こした馬鹿の事、きっちり話してから死にやがれ」
『面倒?何ガ面倒ダ?』
『我等ハ人ヲ喰ウ。オ前等ハ人ヲ統ベル。全部イイ事』
―――ち。
さして静寂でもないその空間で、何故かたった一度の舌打ちの音がやけに響いた気がした。
「前言撤回だ。今すぐ死ね」
その言葉が終わったかどうかの刹那、八咫烏の残った頭も地面に落ちて行く。
残った胴体から吹き出す血飛沫を無表情で浴びる天音の表情は、武将達からは見えないが雰囲気は刺々しくもあり―――どこか、渇望しているようでもあった。
「つ、月宮…」
「―――ンだよ、武田の忍野郎。事態の説明しろとか言われてもやらねェぞ」
声をかけた当人である佐助にも、何故自分が呼びかけたのか分かっていない。
けれど何も言わないままの雰囲気に耐え切れず、掠れて消えそうな声ではあったが何とか絞り出した。
「怪我…して、ない?」
「…ハッ」
返されたのは嘲笑。
「テメェは怪物の怪我も心配すンのか?だったら随分と酔狂な奴だ」
「なっ、そんな言い方ないでしょ!?佐助はアンタを心配して…!」
「小娘、耳障りな声でキャンキャン騒いでンじゃねェよ。その呪(シュ)が無けりゃ一日と保たねェ癖に」
「テメェっ華を馬鹿にすんのか!?」
「事実を言ったまでだ。つーか、マジで気づいてねェのか」
後半はごく小さくぼやいた程度だったが、佐助には聞こえていた。続けて放たれた『黒玄のヤロー』という呟きも。
“黒玄”
その言葉で佐助の脳裏には少し前に長曾我部元親と共にいた女性、紫苑と交換した情報がパズルのように嵌められていった。
黒幕はやはり、黒玄院とやらの者。
理由や目的は不明だが早乙女華という存在は黒幕が送った事。
“シュ”とやらが彼女を守っている事。
それには誰も気付けていない事。
『まさか…』
ふと、脳裏に過ぎった一つの単語。
“贄を受けし扉”
『この女がその“贄”なら…こいつを殺せば、この騒動は終わる…?』
カチ、と籠手と手持ちの武器が触れて金属音が鳴る。
その黒い衝動とも呼べる感情を、佐助は歯を食いしばる事で何とか耐えた。
今は、駄目だ。
今ここで殺しても何にもならない事を、佐助はよく分かっている。
「……アンタらがくたばろうが生き長らえようがどうでもいい。だが俺の邪魔をする気なら、そン時はブッた切る」
最後にその言葉だけを残して、天音の姿は闇に溶けた。
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