戦国への来訪者

□12
3ページ/9ページ


『肉ダ!若クテ柔ラカイ肉!美味ソウナ肉!肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉!』

「肉肉煩ェ」


ゲキャゲキャと喚きながらそう言うのは動物の様々なパーツを無理やり継ぎ合わせたような、見た目からして醜悪な魔物だった。
3つある頭の内1つが嘴を開く。


『強イ奴ノ匂イモスル!腹一杯ダ!腹一杯!』


言葉を話すというのも、見上げる程大きいというのも、周りを侵食するような瘴気を纏っているのも、その全てを初めて見る武将達は……今にも吐きそうな酷い顔で、どうにか立っていた。
早乙女は殺気に対してその鈍さが幸いしたのか、特に変化は見られない。


「霊獣擬きが出たって事はそれだけ瘴気が濃くなってンのか…」

村にも近いし、と口の中だけで呟いて天音は苦無とは逆の手で剣を抜いた。

此方の、戦国の世界に来てから簡単な手入れしか出来ていないその刃は、欠けてはいないものの血や脂のせいでどことなく薄汚れて見える。


「戻ったら源爺に頭下げねェと」


3つある頭の1つが突進しながら口を開いた直後、毒々しい色の液体を吐いてきた。
それを横にずれて避けた天音だが、液体が当たった所は鼻に突き刺さる刺激臭を放ちながら煙を上げている。

「強酸の八咫烏(ヤタガラス)(もどき)か」


頭下げたら許してくれるか?と引きつった顔でぼやく天音だが、瞳には隠しようもないギラつく光が宿っている。

それはこの状況に恐怖するのではなく、一歩間違えば死んでしまう殺し合いに―――歓喜する目。


「っ、月宮!テメェは一体何が目的だ!」

「あァ?俺の目的なんざ決まってンだろうが」


伸びて来た腕らしき触手を無造作に切り落とし、小十郎を振り向かないまま天音は吐き捨てるように答えた。


「このクソ面倒くせェ事態をどうにかして、親父達の所に帰る。それ以外に何があるンだ」


それは『月宮黒幕説』を真っ向から否定するもの。
予想だにしない…と言うか、早乙女に心酔している3人が全く考えていなかった答えに佐助以外が目を見開き驚いていた。

武将達3人は月宮が黒幕でない事に、早乙女は自分と“同じように”異世界から来ている事に。


「“爆符 火炎陣”!」


ヒュ、と天音の手から苦無が飛ぶ。
それらは八咫烏の目に突き刺さると同時に火の粉を散らして爆発した。

聞くに堪えない叫びが起こるが、天音は眉を寄せるだけで真っ直ぐに向かって行く。頭の1つがその姿を捉えた時にはもう遅かった。

「消えろ」


ザシュッ


切り落とされた頭の1つが地面に落ちる。
それに短い悲鳴を上げた早乙女だったが、普段なら気遣ってくれる武将達の誰も言葉を発しようとしない。

―――否。
黒衣を纏い白刃を振るうその姿を焼きつけようとするように、ただ天音にだけ意識を集中させていた。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ