戦国への来訪者
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「ンで世界は神と魔と人の世で出来ている。瓶の中に沈む3つの石がそれぞれの命、そして周りを満たす水を“オニ”と呼ぶ。
―――ただなァ、交わらない三者だが稀に混じる事があるんだ。媒介を通じて、さ」
「それが、お主の言う鬼か」
「ご名答。そんでそういう“混じり物”はどうなると思う?」
月宮の視線は真っ直ぐに佐助へと向かっていた。
瞳に『お前なら分かるだろう?』と言葉を乗せて。
「村八分…ってやつか」
答える佐助の声には多分に苦渋が混じっていた。
「それならまだマシだろうよ。良くて奴隷、悪けりゃ嬲り殺しか生贄だ。俺達月宮組はそういう“混じり物”が群れた集まりなんだよ」
中にはもちろん、純粋な人間でありながら異形扱いされ迫害を受けた者もいる。
髪や左右の目の色が違うだとか、扱う術式が家族の誰とも似ていないだとか、剣や術の才能が飛び抜け過ぎているだとか、理由なんて様々だ。
「組の中で契りを交わしてガキを生む奴らもいるが、組員の多くは外から流れて来た奴さ。もちろん血縁関係なんてある奴の方が稀。
だから……俺達は“家族”なんだ」
「ふふ…ふははははは!そうか、それがお主の家族か!」
「大将?」
突然笑い出した信玄に佐助の訝しげな声がかかる。
膝をバシバシと叩きながら笑う信玄は完全にスルーして、月宮は温くなったお茶を飲んだ。
「ここ武田と同じじゃよ。いや、同じではないかもしれぬが、近しいものはあろう。はは、確かに家族を貶されれば怒るのう」
未だ豪快に笑う信玄から月宮へと、佐助は視線をずらしてそちらを睨んだ。
見れば見る程奇妙な出で立ちのその人を見て、口を開く。
「じゃあさ?例えばその親父さんに“死ね”って言われたらどうすんの?」
「ありえねェな」
半分カマかけ半分本気なその台詞は、迷いの無い一言で両断された。
信玄も笑いを引っ込めて月宮を注視する。
「だから例えばだって〜」
「例えでもあり得ねェモンはあり得ねェよ。自分が人質未遂になった時、相手の台詞遮って『俺ごとこいつら皆殺せ』って言うような人だぜ?そんなんだからついて来てる奴もいるってのに」
だから、あり得ない。
自分の命と家族の命なら、迷う事無く家族の命を優先させる“親父”。
そんな彼だからこそ皆が父と呼び慕うのだ、と。
月宮は特に何の変哲も無しにそう言い切った。
「ていうか、それで殺しちゃう訳?その親父さんを」
「殺さねェよ、話の流れで分かるだろうが。意地でも殺すか馬鹿らしい。気配消して相手の背後に回って首飛ばして終了だっつの」
「あれ今すっごい軽い口調ですごい事言われた」
「ならば月宮。お主は何の為に戦う?」
真剣そのものの問いに、月宮は空の湯呑を膳に戻し視線を上げ、目を逸らす事無く臆する事無く、はっきりと言い放つ。
「自分の為だ。俺が俺である限りそれ以外の理由で生きるつもりは無い」
「……そうか」
生きる=戦うの方程式が成り立つ月宮流に言えば、自分の為以外で戦うつもりは無い、という事になる。
そして信玄の経験上、こういう輩は自分の言い分をまず曲げないのだ。
「ま、俺は傭兵だからよ。依頼があるなら報酬を代価にこの腕、存分に奮ってやろうさ」
「頼もしいことじゃ」
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