彼が背を伸ばしたい理由。


「今日、ティアたちも身体測定だったんだろ?」

「ええ」


帰り道
今日はルークの部活が休みということで、一緒に帰っていた。

ひとつ上のルークとは幼馴染みで、こうして部活がない日は一緒に帰ろうと誘ってくれたり、とてもよくしてもらっている。


「俺あんま伸びてなかったんだよな、身長」

ひとつ小さなため息をついて、あと10cmはほしいんだけどな、とルークは唇を尖らせた。

いまルークの身長は、私より2〜3センチほど大きいくらいで、あまり差はない。でもルークは男の子だし、背なんてあっという間に伸びると思うのだけれど

どうしてそんなに背を伸ばしたいのか、と問えば、
クラスの男子が平均的に大きい人ばかりで、友達にチビ扱いされるのが気に入らないから早く伸びて見下ろしたい、と返ってきた。

なんだか彼らしい理由に、思わずくすりと笑みがこぼれて

「笑うなっつーの」

むすっと唇を尖らせて、頭をくしゃくしゃ撫でられる。乱れてしまった髪を軽く手櫛で整えていると、鼻の頭をポリポリとかきながら、それにさとルークが続けた。


「彼女とかできたら、格好つかねーじゃん」

「え……」

ルークの口から出たその言葉に、思わず足を止める。

「…か…彼、女………?」


「…ん?ティア、どーした?」


付いてきていない私に気付いたのか、振り向いてルークがいう。
そのままこちらに戻ってきて、目があった。


「…か…彼女、つくるの…?」


彼女。
特別な、人。

彼のとなりを歩く、私の知らない“彼女”を想像して、ちくんと胸が痛む。


やっぱり、ルークもそういうのに興味があるのかしら。幼馴染みで、小さい頃から一緒にいたのに、急に彼だけ大人になってしまったようで。なんだか置いていかれたようで、寂しくて、ぎゅっとルークの制服の袖を掴んで、俯く。


「ティア…?」

ひょい、と朱毛がちらついて、澄んだ翠の瞳と再び目があって
顔を覗き込まれていることに気づいて、慌てて顔をそらす。


恥ずかしい。
きっと、変な顔をしていた。
どうしてだかわからないけれど、ルークに彼女が出来るのが、…嫌だと、思ってしまった。

つい最近、幼馴染みの1人、ガイに彼女が出来たと聞いたときとか、嫌とは思わなかったのに。むしろ、祝福の気持ちで一杯だったというか。兄さんにも彼女がいるけど、別に嫌な気持ちになんてならなかったし……。


どうしてだかわからない。
けれど、やっぱり、ルークに彼女が出来るのは嫌。


(……どうして、かしら)


はやく帰ろうぜ、と私の手を引いてルークが歩き出す。

なんだか、おかしいわ、私。
繋がれたままの手や顔が熱くなっていくのを感じながら、深く深呼吸をした。







(………背を伸ばしたい理由…ほんとは、お前と並んだとき、かっこつかないからなんだけど)

それにしても。俺、全然意識されてない気がする。

隣の、何だか落ち着かない様子の彼女をみて、小さくため息をつく。

ティアよりずっと背が高くなって、幼馴染みでなく、男としてみてもらえるようになったら。この気持ちを伝えようと、心に決めるルークであった。




fin

ティアはまだ恋愛感情より幼馴染み意識の方が強い感じで。
ガイの彼女はノエル、ヴァンはリグ、出てないけどアッシュはちっさいころからナタリアとラブラブです。



拍手ありがとうございました。






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