―蒼空を望んだ―














あるお昼休み、庄左ヱ門と伊助は教室から窓の外を見ていた。グラウンドでサッカーをしている級友達を見つめながら、伊助が溜め息混じりで呟いた。





「…午前の授業、失敗また失敗で、土井先生のカミナリは落ちるし、もう大変だったね」



何言ってるんだ?という顔をしながら、庄左ヱ門が返答した。



「そう?僕は大変だと思わなかったけど」




「えっ?…庄ちゃんってさぁ、何でいつもそんなに冷静でいられるの?
どんなトラブルに遭遇しても驚かないし」


「何でって、それは慣れだよ。僕そういうのすぐに慣れちゃうんだ」


もう何があっても驚かないよ、と続ける庄左ヱ門。




彼は本当に自分と同い年なのか、と伊助は思った。







「それにしても今日はいい天気だね。何かいい事ありそう」



「う、うん。そうだね…」







庄左ヱ門にとって、蒼空はは少し怖いものだった。
いい事がありそうだなんて思った事がない。





時々彼は大人の心がよく解りすぎて、落ち込んでしまう事がある。それは今になってからの事ではなく、学園に入学する前からであった。











五つの時。





祖父と一緒に買い物をしている時、店の前で少し待っててくれと行ってその店の中へ入っていった。





町は人で溢れている。
近くで、男の怒声が聞こえた。




うどん屋の店主らしき老人が、五つ位の子供を連れた人相の悪い父親に苦情を言われている。



「おい、このうどん冷めてるじゃねぇか」



「もっ、申し訳ありません。今温かいのと取り替えるんで…」



「ったく、冷めた料理出すなんて非常識な店だな」


貧乏揺すりをして露骨に怒りを表現している。


子供は父親の袖に掴んでやめてよと言いながら泣きそうになっていた。




実は冷めてるうどんは子供に食べさせるものだったのだ。




子供が食べるには熱すぎると思ったうどん屋の主人が親切に冷ましてくれたというのに、父親は気付いていないのか。



いや、気付いていても認めたくないのかもしれない。




庄左ヱ門は不快に思った。




そういえば、どこかの大人が「客は店のやつに何を言ってもいいんだよ」というのを聞いた事がある。


自分の店にも言い掛かりをつけてきた客は少なくなかった。



立場を利用して、何も言えない事を知っていて、言いたい放題。

この人達は自分が見えていないのだろうか。




それを見る度考える度、酷く落ち込む。



あんな大人になんかなりたくはない…



そのためには、冷静に自分を客観視しなくてはならない。


気を抜いたら自分も周りの大人達のようになってしまう…







これが五つの庄左ヱ門が感じた恐怖だった。
















「僕、昔から泣くのが嫌いなんだ」


「え?どうして?」


「だって皆悲しむし、それに凄い恥ずかしいじゃないか。顔なんてさ、もうぐしょぐしょで」



「はははっ、本当庄ちゃんってさあ、僕らは組とは同い年とは思えないよ。
今まで一緒にいて今、ようやくわかった気がする。
話とか考え方がお年寄りくさい!」


「ええーっ?本当に?」


「趣味だってお茶をたしなむ事、だろ?」



ははははは!



二人は大きな声で笑い合った。






―それで僕は泣きたい時になったら、誰にも見られない場所で一人でひっそり泣くんだ…


この一言を言ってしまおうと思ったが、彼は心の中にそっと、閉まっておく事にした。










黒木庄左ヱ門―





好きな色は青色

好きな数字は零



その二つに相応しいもの、

雲一つ無い晴れた空…


蒼空、無の象徴…


庄左ヱ門の憧れ。
切ない。



僕は、良い事も悪い事も全て受け入れられる





蒼空になりたい。










ブレイン様より企画参加させて頂きました!


ジュテーム庄たんっ!

有難う御座居ました!








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