8月拍手文
「反対言葉」(ちびひば夢)
―ピカッ
ゴロゴロ…
「…」
寝れない。
別に雷が怖いわけじゃないよ。寝付けないの
右には母さん、左には父さん、真ん中には僕…と、柚奈。三人ともぐっすりと眠っている。
父さんなんか母さんを抱き寄せ寝てるよ。子ども置き去りにして何してるのさ
「……ひま」
くぁ、と欠伸をひとつ。欠伸は出るのに何で眠くないんだろう。
ねぇ、たいくつだよ。だれかかまって?
暗闇の中で漆黒の瞳は訴えかけた。
すると、
『ん、おにいちゃ…』
「ゆうな?」
『んんぅー…お、はよ?』
「…まだよるだよ、ゆうな」
小さいはずの声を聞き取ってしまったのか、目を擦って柚奈が起きてしまった。
シーツを握り丸くなる彼女の頭を、彼はぽんぽんと撫でた。途端に覚醒し始める大きな瞳。
『きょーやおにいちゃん、ねんねしないの?』
「ねれないの」
『なんで?』
「わからない。かみなりのせいかもね」
『かみなり?』
横になりながら首を傾げると、急にバリバリッという雷鳴と共にドーンと雷が近くに落ちた。地響きが夜を揺らす。
多少びくついてしまった雲雀くんとは真逆に、柚奈は丸く開いていた目に歓喜の明かりを灯した。
『いまの、はなび!』
「へ?」
『どーんってなって、ぴかってひかるの!はなびみたい!』
「そうかもね…」
『かみなり、こわくないね』
「うん」
『また、おにいちゃんとはなび、みたいな!』
「こんどほいくえんではなびやるっていってたから、そのときね」
『そのとき!』
叫びながらガバッと抱きついてくる柚奈。体同士が一気にくっつく。
首の所に髪の毛が当たってくすぐったくて、顔を背けた。
「ゆうな、あつい…」
『やきそば!わたあめ!やきたこたべたい!』
「(やきたこ?)きいてる?」
『ぜーんぶおにいちゃんに、あーんてしてあげるね』
「そんなにたべられないよ」
『ぱいなっぷるは?』
「たべない。」
『おいしいよ?…』
「きにくわないの。あのあじといいしょっかんといい」
『じゃあかきご…り、は?』
「きらいじゃないよ」
『きらいじゃな…?』
「すき」
『ふふ、わたしもきょーやおにいちゃん、すきー』
「Σ!?」
『ーおやす、み…』
すぴー。
そのような効果音が合うように、彼女は一瞬で眠ってしまった。僕の腕を枕にして胸に顔を押し付けて。
すりすりと頬擦りするような仕草にはつい顔が熱くなった。ああもう、余計眠れないじゃないか。
一旦布団から出て窓を開けた。いつの間にか止んだ雷と雨、涼しい風が寝室に入り込む。
再び布団に戻ると、柚奈は僕にぴっとりとくっついて眠る。蒸し暑くはない…
キライ、じゃないよ。寄り添って寝ることも、君も。
むしろ、すきなほう、だったり。
腕を柚奈の背中に回してさらにくっつく。ああ、やっぱり抱き心地がいい。
目を瞑れば広がる夢世界。明日は何をして遊ぼうか?
微かに震えていた身体は、いつの間にか収まっていた。
8月 拍手文
8/3〜