キリリク&拍手文

□だきまくら
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11月拍手文(小話)

「だきまくら」




『モークーモークーくーもくもー♪』


「…なんのうた。それ」


『うーんとね。くものうた!』


「や、そりゃきいてればわかるけどさ。なんでおんていが「かえるのがっしょう」なの?」


『なりゆき!』


「でもおんち」


『ひど!』




この子は文句を一つ吐くと、再び懲りずに歌い出す。

僕は替え歌された「かえるのうた」を耳だけ向けて聞きながら、手元にある小さな鍵盤に触れた。




『?きょーやおにいちゃん。なぁにそれ』


「けんばんハーモニカ」


『けんちゃんハーゲンダッツ?』


「なにをどうしたらそうきこえるの。ハーモニカね」



けんちゃんって誰;
気になるんだけど



『がっき?』


「がっき。」


『ひけるの?おにいちゃん』


「ひけるよ」


『ひいてひいてー!』


「や。」


『ひっいってーっ!』


「Σな、どうしたのきゅうに;;」


『おうたうたいたいの!』


「…いつからそんなにわがままいうようになったの(はんこうき?)」


『おにいちゃんがひいて、わたしがうたうの!』


「…しかたないな」


『やったあ!』


「でも、」


『へ?』


「じょうずにうたわなきゃだめだからね。ばつげーむあるから」


『ばつげーむ?』


「イタズラのこと」


『えーやだっ』


「じゃあじょうずにうたうんだよ」


『がんばる!』




ムッと眉間に皺を寄せてやる気を見せる彼女。

今か今かと真剣な眼差しを向けられて、僕はやっと鍵盤を引くのに専念しはじめた。




***


〜♪



「…おしまい」


『ふぅ…ね、どーだった?』



ワオ。精一杯歌ったせいで息切れまでしてる。

鍵盤から手を離して、その少し乱れた髪に手を伸ばす。

その頑張りは


―ぽん



「おめでと。100てん」


『っわ――』


「といいたいところだけど、ざんねん。2てん」


『………どうして?』


「おんていまるでちがうし、かしもちがってた」


『、せっかくがんばってうたったのに…うぅ』


「それじゃいまからばつげーむね」


『Σいやだ!ばつげーむいや!』


「なんでさ」



なんでそんなに嫌がる必要があるの。



『こわいもん!ほっぺぐにーってやられたり、こちょこちょされたり、や、だもんっ』


「べつにそんなことしないよ。こわくない。ほら、こっちおいで」


『うー…』


「…」




なかなか来ないこの子の元へ、僕は自ら歩み寄ると

猫が警戒する時のように唸られた。

―ホントに何にもしないのに。僕はそんな卑しいやつじゃない。


ただぼくは―…




《…ぎゅっ》



『ほぇ?』


「ばつげーむ」



こうやってしたかっただけ。



『でも、きょーやおにいちゃん。これ、ぎゅーっだよ?』


「ばつげーむ。」


『ぎゅー「ばつげーむ。」


『ぎ「ばつげーむ。」


『だっこ…Σおにいちゃんっくるし…!』


「ばつげーむなの。だからいいでしょ」



―きもちいいからやめてやらないんだ。

マシュマロみたいに柔らかい感触に、さらさらの髪。

もちもちのほっぺだって譲れない。



『っしんじゃうよ!』


「ぎゅー」


『む…』


「ぎゅ……きもちい、」



君は僕のだきまくら。



『……』




―ぎゅっ



「!」


『…わたしも、ぎゅ//』


「(くすっ)かわい…」


『きょーやおにいちゃん、いいにおいー』


「きみはやわらかい」


『…ねむい』


「ねちゃえ」


『う、ん』


「おやすみ」




可愛い僕のだきまくら。


手放せなくなりそうだ。





☆おしまい!


11/6〜12/5

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