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□夢潰えて。幻、儚くも続く。
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「…夢、まぼろし也…か」
遠くで人々の叫ぶ声や金属の擦れ合う音、銃や大砲の耳をつんざく発砲音。大多数の足音によって起こる地鳴りや土煙。
そんな喧騒を遠くに、しんと静まり返った部屋の主は言う。
「半蔵」
「…ここに」
音もなく姿を見せ膝をつく男。服部半蔵。この徳川に仕える優秀な忍である。
「どうやら儂もここまでのようじゃ」
部屋の主、徳川家康は苦笑気味に旧知の忍に漏らした。
「まだ策はあります」
そんな主の背中を見ながら半蔵は力強く言ってみせた。
はったりなどではなく、まだ巻き返しの奇策があったのだ。
まだ負けてなどいない。徳川は、まだやれる。
「半蔵、」
「私を使ってください、殿。私なら…!」
「半蔵!」
主の負け姿など誰がみたいと思うだろうか?
いつも先陣を切って突き進む主は誰よりも頼もしかったのに。
今、目の前にある年老いた背中は果たしてあの時と同じ背中なのだろうか。
願わずにはいられない。
あの動乱の世を駆け抜け、その所作にまで鋭気あふれた、
誰もを圧倒しうるあの覇気を、私はもう一度見たいと。
しかし殿は私の言葉を遮った。
何故、と視線を足元から覇気が消えた背中へと向ける。
「……、」
ふと視線が合った。
あの頃と同じ、はっと息を飲むほどに野望に満ちたあのギラついた目だ。…私は瞬きすら出来なかった。
「半蔵、儂は老いた。こうして城も攻め入られるままだ。もう、良い頃なのかもしれぬ…」
「いいえ…。いいえ!殿っ…まだ負けと決まったわけではありますまい!今この時も徳川の兵が、殿の為にと戦っております!!徳川家家臣、最後の一人になるまで戦い続けまする!!」
必死だった。私は前のめりになり必死でいい募った。
戻って欲しかった。取り戻して欲しかったのだ。
あの頃の野望を、あの頃の熱を…。
我が主はこんなものではないということを、確信したかった…。