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音色
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暑い夏の日差しを目の裏で感じる


そっと目を開ける。


そこは学校のグラウンド


オレはマウンドに立っていた。


十八.四四メートルの先にはキャッチャーとバッターボックス


汗が顎から滑り落ち、オレはまた目を閉じる




誰もいない マウンド


誰もいない 教室


誰もいない 廊下


誰もいない 体育館


誰もいない 屋上




全てオレの音に染まってく。




ボールを投げる瞬間の高揚感も


サインをうける時の胃がキュッと締まるような感覚も

打たれた時の絶望感も


マウンドに立つ時の酔い痴れるような幸福感も 全て、


オレの色――。




夏の生温い風が俺を阻もうと、吹き抜ける


だが、オレはその風さえも己の色に変えていく




目を開き、ただ一点を見つめ


己の思いを描く


ここはまだ何もない。
何の思いもない、まっさらな空間…


…オレだけだ。


ふと視線を落とすと、手に馴染んだ薄汚れたボール


腕を振り上げ、正面にいるあいつのミットに解き放つ



オレだけの空、オレだけの音、


オレだけの風、オレだけのマウンド


オレだけの世界…


オレの世界だ。



届け…オレの思いを、願いを、希望を、夢を、全て届け伝えろ


あの場所へ
あの時へ
あの人へ


そこはまだ何もない―――





ただ一筋の光希望に辿って行けば そこには辿りつけるのか…?


限られた時間、限られた夢
…今しか出来ないんだ


だから今を歩き始める、後悔しないくて済むように。



一歩 一歩 歩いてく










『二人で絶対、甲子園だ!』




夏のが オレを包んだ。


 

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