長編番外編

□お菓子をくれたら
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最悪な夜だ。
ベティは保健室のベッドの上で、何度目かもわからないため息をついた。
今日は待ちに待ったハロウィンだった。
悪戯仕掛人として見逃せるはずがないイベントだ。
この日のために1ヶ月も前から衣装を準備して、ドクター・フィリバスターの長々花火も大量に買って、あとは花火をかぼちゃの中に仕掛けるだけだったのに。
ベティは自分の包帯でぐるぐる巻きの足を恨めしげに見た。
花火を仕掛けている時に箒から落ちて足をくじいてしまったのだ。悪いことに、保健室でも薬を切らしていたので痛みどめは飲んだものの今夜一杯は動けそうにない。
この部屋には今ベティの他には誰もいない。
最初はシリウス達もここにいると言ってくれたのだが、ベティは皆にパーティを楽しんできて欲しいと言って追い返していた。
こういう時、本当は皆にいて欲しいのに妙に強がってしまう自分が嫌になる。
ベティはベッドの横の机に置かれたお菓子の山(せめて皆と同じものを食べましょうとリリーが置いていってくれた)に手を伸ばし、かぼちゃキャンディーを口に入れた。
口の中いっぱいにかぼちゃの味が広がったが、妙に苦く感じた。
遠くで花火の破裂する音が聞こえる。
ベティは悪戯仕掛人達の健闘を祈ると、ランプを消し目を閉じて毛布を引き上げた。

「おい、ベティ、寝てるのか?」
うつらうつらしていたベティは、聞き覚えのある声に一発で目を覚ました。
「寝てるよ」
「しっかり起きてるじゃねーか」
ベティが毛布から顔を出すと、そこには吸血鬼の格好をしたシリウスが立っていた。部屋に明かりがついていないからか、まるで本物の吸血鬼のようだった。
「よお」
シリウスがニヤッと笑った。
ベティは訝しげにシリウスを見た。パーティが始まって、まだほとんど時間は経っていないはずだ。
「シリウス、もうパーティ終わったの?」
「まだ始まってから30分くらいだな」
シリウスがうんざりした顔になった。
「花火は成功したんだが、物凄い数の女子に追い回されたから逃げてきた」
ベティはくすっと笑った。
女の子の気持ちはわからなくもない。黒のスーツを着て髪をバックに流し、長いマントを羽織った今のシリウスは最高に格好よかったから。
「お疲れ様」
「おっと、目的を忘れるところだった」
シリウスが改まってベティを見た。
「トリック オア トリート!」

「何だか不公平だよねえ」
かぼちゃパイを頬張るシリウスを見て、ふとベティが言った。
「はん?」
シリウスはかぼちゃパイを飲み込むとこっちを向いた。
「何がだよ?」
「シリウスは悪戯しない代わりにお菓子が貰えるでしょ?
でも私はお菓子をあげるだけで、損するじゃない」
私は仮装できないから、お菓子ももらえないし。と、ベティは付け加えた。
「なるほど、確かにベティだけ損だな」
シリウスは指についたかぼちゃパイの欠片をぺろっと舐めると、少し考えてから口を開いた。
「他の女子なら絶対やらないけど、ベティならいいや。特別にお返しをしてやろう」
「え、何かくれるの?」
「ああ。ベティ、ベッドにちゃんと座ってみろ」
ベティは何だかわからないまま、ベッドにもたれずに身を起こした。
シリウスは跪いてゆっくりベティの手をとると、すっと唇を近づけた。
真っ赤になったベティの目を見て、シリウスはにっこり笑った。
「どうだ、お菓子の代わりになったか?」
ベティはしばらく声も出なかったが、やっとのことで呟いた。
「……十分すぎて、心臓止まっちゃいそう」
「そりゃ良かった」
シリウスは満足そうに頷いた。
 

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