長編番外編

□階段にて
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ベティとリリーは心身ともに疲れていた。
ジェームズの透明マントの存在もそうだが、絨毯がないので寝室まで自分の足で行くしかないのだ。
夜中なので誰もいないのも、疲れから気をそらせない憂鬱さを更にかきたてている。
ベティは気晴らしに話を振った。
「リリー、本は借りた?」
「ううん。読みたかったのは貸し出し中だったわ」
「そっか。何の本?」
「『クィディッチ今昔』っていう本」
ベティは思わず足を止めた。
「『クィディッチ今昔』!?言ってくれれば貸したのに!」
リリーも驚いた顔をした。
「ベティ、持ってたの?……あ、そういえばクィディッチやってるのよね。借りてもいい?」
「もちろん!でも家に置いて来ちゃったから、今度でいい?」
「ええ、ありがとう」
しかし、会話が途切れるのはあっという間だった。
「やっぱりきついわね、この階段……」
「うん……。まだ半分くらいかな?」
その時、目の前の寝室の扉ががちゃりと開いた。
二人は驚いて立ち止まる。
「……あら、あなた達、まだ起きてたの?」
「メリッサ!びっくりした……」
出てきたのは、監督生のメリッサ・ジョンソンだった。ネグリジェ姿で、黒い髪を横に垂らしている。
「ちょっと眠れなくてね。……あなた達は、校内を冒険してたのかしら?」
メリッサの目がいたずらっぽく光った。
怒っている様子はなかったので、ベティは素直に認めた。
「談話室から出る時にレオンに会ったけど、見逃してくれたの」
リリーが目をむいて驚いた。
「そうだったの!?いつも怒ったような顔してるし、てっきり厳しい人だと思ってたわ!」
メリッサは笑いだした。
「怒ってるのは地顔よ。彼は去年まで真夜中のお忍びの常習犯だったもの。今年からは目指せ魔法省だから自粛するみたいだけどね」
今度は二人とも驚いた。
「そうなの!?」
「ええ、ジェームズみたいな子だったわ。何点寮点引かれたかわからないし。いつも違反なんかばれなきゃいいって笑ってたわね」
ベティは一つ疑問に思っていることがあった。
「メリッサ、レオンと仲良いの?」
メリッサはこともなげに答えた。
「結構ね。そもそも私、レオンと付き合ってるもの」
「ええ!?」
二人の反応が面白いらしく、メリッサがくすくす笑った。
「お忍びもね、半分くらいは私とのデートよ、実は」
リリーは驚きっぱなしだったが、思い切ったように聞いた。
「そんなに校則破ったのに、どうして監督生になれたの?」
「リリーはずいぶんはっきり聞くわね……。簡単、ばれないように頑張ったのよ。寮点引かれたら授業で取り返してたし。
私、彼のそういう真面目な所が好きなのよ」
メリッサがうっとりしながら惚気始めた。真夜中のせいか、少し気分が高揚しているらしい。
「……ジェームズも、ちょっとでも真面目にすればいいのに」
リリーが小さく呟いた。
ベティは聞き逃さなかった。
「あれ、もしかしてジェームズのこと気になるの?男の子として」
リリーは頬をピンクに染めて否定した。
「違うわよ!ただそうだったらもうちょっと話しやすいのにって思っただけ!」
「ふうん」
ベティはほとんど聞いていなかった。これはシリウスに報告しなければ。
ジェームズには内緒だ。聞いたら絶対調子に乗る。
メリッサがふっと上を向いて言った。
「あら、お迎えが来たみたいよ」
つられて二人も同じ方向を見ると、アビゲイルが絨毯に乗って降りてきた。
「二人ともごめんね、遅くなって。さあ、乗って」
「うん」
二人は絨毯に乗り込むと、メリッサの方を振り返った。
「おやすみなさい、メリッサ」
「また明日」
「おやすみ」
メリッサは微笑み、ドアを閉めた。
絨毯はふわりと上昇した。

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