・短編H・

□三角関係
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「里保ちゃんは石田さんのこと好き?」



いきなりの質問に、亜佑美ちゃんはうちよりも驚いていた。



「なななな!なにを聞いてるんですか!」



「え?そりゃ好きだよ?」



どうしてそんなこと聞かれたのかわからない。
仲悪く見えたりしたのだろうか。

うちと亜佑美ちゃんと佳林ちゃんは、同じダンススクールの生徒だ。
うちはまだ物心つかないくらい小さい時から通っていて、亜佑美ちゃんは2年くらい前に入ってきて、亜佑美ちゃんの方が年上なのになんか「尊敬してるから」とかいう理由で鞘師さんと呼んでくるし、敬語も使われてる。
そして佳林ちゃんは一ヶ月前に入ってきたばかり。
同い年で気も合った、というか佳林ちゃんがすごく話しかけてくれるから自然と仲良くなって、亜佑美ちゃんよりフランクな関係に見えるようになっている。



「あぁ…その言い方なら安心」



「宮本さんっ…!なにを急にそんなことを…!」



「石田さんもかりんと一緒ですね」



「一緒にしないでほしいですね…!」



なんだかよくわからないけど、仲良いんだね、というような雰囲気ではない。
むしろ、バチバチして見えるくらいだ。

面倒臭そうなことには関わらないでおこう。

そう思って無駄だと思いながら少し距離を置いてストレッチを始める。



「あっ!鞘師さん!鞘師さんは宮本さんのこと好きですか?」



「え、うん…好きだけど…?」



そんな距離は簡単に縮められて二人に挟まれる。
慣れたものだと思いながらストレッチを進めるけど、二人が両サイドからぎゅうぎゅう詰めてきて困る。



「ちょっ!なに聞いてるんですかっ!」



「同じことしただけですぅ」



「っ、きぃー!」



きぃー!って。
本当に言う人初めて見た。
ぷっ、と吹き出すと、佳林ちゃんがぷくーっと頬を膨らます。



「佳林ちゃん可愛いね」



「っ……ストレッチ、手伝ってあげる」



「あぁ、ありがと」



両サイドから邪魔されるよりマシと思って頼む。
すると亜佑美ちゃんが口を真一文字に結んでて、それがまた面白くて笑ってしまった。
こんな綺麗な真一文字見たことなかったんだもん。



「亜佑美ちゃん、変な顔…!」



「ちょっ!酷いですよ!」



「んふ…ふふ…うちの好きな亜佑美ちゃんの唇が変形してしまった…!」



「ま、また唇とか見て!ていうか!私がいつも通りストレッチ手伝います!」



うちは常日頃亜佑美ちゃんの唇が綺麗だとか好きだとか公言してて、それに対して亜佑美ちゃんは苦笑いばっかりだったけど、今日はなんか嬉しそうに見えた。
真一文字からうちの好きな唇に戻ったと思ったら、佳林ちゃんに次いでうちのストレッチを手伝い始めた。



「今日はかりんが手伝うんですぅ!」



「いつも私の役目ですもん!」



「いっ、痛い痛い…!」



「じゃあ今日くらい譲ってください!」



「絶対嫌です!変なとこ触るつもりでしょう!」



「ちょっ…二人とも痛いって…!」



「さわっ…いつもそんなこと考えながら里保ちゃんのストレッチ手伝ってるんですか!」



「そ、そういうことじゃっ…!」



「いーっ…!!」



「もうそんな人に任せられません!今度からかりんが手伝います!」



「なんでそういうことに!嫌ですよ!」



「っ、痛いって言ってるじゃん!!!」



大きい声が出た。
びっくりして二人は固まっている。
うちは怒りで少し震えている。

だって限界を越えてストレッチさせられたんだよ。怒るよ。



「二人が仲悪いのは嫌だけど!でも!関係ないうちを巻き込まないでよ!」



言ってやった。
二人は黙り込んでる。
これで少しは反省してくれるだろう。



と、思った直後だった。



「関係ないわけないでしょ!!」



「どんだけ鈍感なんですか!!」



いつの間にかうちが小さくなって黙り込んでて。
反省するように正座してて。
ガミガミ両サイドから怒られてて。



「あれ…なんでこうなった…」



呟いた言葉は誰に届くでもなく、二人の説教が終わるわけでもなく、レッスンが始まるまでうちは正座をさせられたままだった。
だんだん冷静になっていくと、二人の説教が息ぴったりなことに気づく。

本当は仲良しなんじゃないか。

そう思ったけど、これを言ったら更に怒られそうな気がしたので、しっかりと口を紡ぐことにした。



end
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