・短編E・
□恋人は風邪っぴき
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確かに違和感はあった。
いつもよりボーッとしてて、いつもよりガーっとしてなくて。
しかし、会ってすぐどうかしたのか聞いた時には、なんでもないよと笑顔で答えられた。
心配かけたくないのもわかる。
そういう子だとは長い付き合いで知ってる。
だけど、だからって、38℃以上熱がある状態で倒れるまで我慢しなくてもと思うのだ。
―――――――――――――
昼休みに入り、二人分のお弁当を持って保健室に向かう。
あの子が食べれるかはわからないけど、少しは何か食べさせた方がいいだろう。
「失礼します」
ノックをしてから中に入る。
定位置に座っていた石川先生が、あたしを見て『あぁ』と納得したような顔をしてベッドを指差した。
「まだぐっすり」
「あ、そうですか。じゃあお弁当いらなかったですね」
「いや、なんか飲ませたり食べさせたりした方がいいし、起こしてもいいわよ」
そんな石川先生の言葉に頷いてから、カーテンで遮られてるベッドに近づく。
カーテンの内側に入ると、まだ少し苦しそうな顔をしながら寝てる舞美がいた。
「舞美、起きて」
脇にお弁当を置いて、ポンポンと軽く肩を叩きながら起こすと、舞美の目が薄く開く。
そして完全に開いたと思ったら、次の瞬間すごい速さで舞美が起き上がった。
「こ、ここどこっ?」
「いきなり起き上がんないの。また倒れるよ」
思い切り起き上がりすぎて若干ふらついてる舞美の上半身を支えてそう言うと、不思議そうな顔で固まっている。
もしかして、と思ってあたしは舞美に聞くことにした。
「なんでここにいるかわかんないの?」
「あ、うん・・・あたし今日、なにしてた?ていうか今何時?授業は?」
思い出したように早口で聞いてくる舞美。
本当に覚えてなさそうだ、と近くにあった丸椅子に座りながら順を追って説明してあげることにした。
「朝は普通に学校来て、三時間目まではちゃんと受けてたよ。意識あったのかは知らないけど。で、四時間目の体育の時にいきなり倒れて、ももとあたしに保健室に運ばれて今に至る。食べる?」
ぽけーっとした顔で聞いていたのでどうせあんまり聞いてないのだろうと、説明が終わると同時にお弁当を持ち上げて聞く。
ゆっくりと頷いた舞美にお弁当を手渡して自分も食べ始めると、固まっていた舞美がいきなり声をあげた。
「た、倒れたの!?」
遅いよ。
そう思いながらも言わずにただ頷く。
その様子に、ようやくあたしが少し怒ってることに気づいたのか、おずおずとあたしのことを見る舞美。
「ご、ごめんね・・・迷惑かけちゃって・・・」
そんな申し訳なさそうな言葉に、カッとなって少し大きな声が出た。
「っ、違うよ!」
違う、この人はなんにもわかってない。
迷惑かけるのが悪いことなんじゃないってわかってない。
こんなの、こんなのは、こんなのは信頼してないと言われてるようなものじゃないか。
「どうしたの?」
あたしの声に驚いた石川先生がこっちの様子を伺う。
しょんぼりしてる舞美とピリピリしてるあたしを見て、少し悩んだ様子を見せてから出口に向かって歩き出した。
「お昼休み終わるまで帰らないから仲直りしなさい・・・・・・・・・ていうかもう二人とも帰っていいよ。矢島一人で帰れなさそうだから清水が送ってあげて。許可の紙なら机の上置いてあるから」
そう言って手をひらひらと振って本当に出ていってしまう石川先生。
気まずい沈黙が流れる。
「ごめん・・・」
「なんで謝ってるの?」
「佐紀が怒ってるから・・・・・・またこれで佐紀が苛つくのもわかるけど、あたし、佐紀に怒っててほしくないんだもん・・・・・・」
小さい子供みたいに俯きながらそう言う舞美に、なんだか怒ってる自分がバカバカしくなる。
小さい子供を苛めてるようで気分も悪い。
あたしが一歩譲って、今度からはこういうことがないように言えばいいだけなんだから。
「体調悪くなったらあたしに言って」
「え?」
「あたしのこと信頼してくれてないなら別だけど」
「しっ、してる!してるよ!言うっ!」
あたしの言葉に大きい声で反応する舞美を、大人しくしなさいとなだめてから頷く。
素直なこの人だから、言うって言ったことは言ってくれるはず。
今度はあたしが信用する番だ。
満足そうにお弁当を広げ始める舞美に、もれなくあたしも満足げに微笑んだ。
end