・短編H・

□五人でひとつ
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「早貴ってはぶかれやすいのかな」

ポロっと溢れたようななっきぃのそんな言葉に、私は口をもごもごすることしかできない。
私たちの視線の先には、いつもみたいなくだらない口論を繰り返してる千聖と舞。
なっきぃから見るといちゃいちゃしてるらしい。

正直、眼科に行けと思う。
あと耳鼻科。
耳を重点的に診てもらってほしい。

「なんかさ、いつも余ってんなって思う」

私がそんなことを考えてるとは露知らず、なっきぃのお悩み相談室が始まった。
頭を抱えたくなる。
なんでこんな意味ないことをしなくちゃいけないんだ。
ヘルプの視線を我がグループのリーダーに送る。
舞美ちゃんはにこにこ笑ってるだけ。
たぶんなにも考えてない。
じゃれてるちさまい可愛いなーとか考えてる側の人間だ。

「愛理聞いてる?」

「え、あ、うん」

「……愛理はいいよね、いつもリーダーとセットで」

確かに、ファンの人の間では私と舞美ちゃんがセットで見られることが多い。
そして必然的になっきぃ千聖舞ちゃんの三人でセット扱いされることも多くなる。
だけどたまに、なっきぃが一人にされることがあることも知ってる。
おそらくなっきぃはその部分を気にしすぎているのだと思う。

だって、私から見たら、三人は三人でしかないのだから。

「舞はこないだ遊んでたろ!」

「千聖だって家に連れ込んでたじゃん」

なっきぃについての口論だ。
どうして気づかない。
本当に耳が悪いんじゃないか。

「あーあっ」

そう声をあげて、ケータイをいじり始めるなっきぃ。
ため息をつく私。

「しょうがない…」

なっきぃには聞こえないようにそう言い、未だにくだらない口論をしてる二人を睨む。
気づけ気づけーと念を送ってると、ようやく舞ちゃんが気づいてこっちを見た。
それに続くように千聖も視線を送ってくる。

ちょんちょん、となっきぃを指差す。
すると千聖がファイティングポーズを取って舞ちゃんに向き直る。
そうじゃないってば、と伝えるように首を振る。
したら次は舞ちゃんが千聖に頭突き。
その後はもう二人ともこっちを見ることなくわちゃわちゃ戦い始めてしまった。

もう一度ため息をつく。
だけど、ため息は一つではなかった。
隣から聞こえたそれに視線を向ける。
ケータイを開いたまま、戦っている二人を見るなっきぃがいた。

もう声を出して教えるしかないか、と思った時だった。

「ちっさー、舞」

優しい声が聞こえた。
私が葛藤してた時間を返せ、と既に思うほど、この人が動けば丸く収まるという確信があった。

「舞美ちゃん聞いてよ!舞が!」

「ちがっ!千聖が!」

「うんうん。二人ともお腹空いてるでしょ?そろそろご飯食べに行こう」

ぎゃあぎゃあ騒いでた二人が、静かになって拗ねた顔。
そんな二人の頭をぽんっと軽く叩いて、舞美ちゃんがこっちを見る。

「二人も、行こう?」

こくん、と頷いたのは同じタイミングだったと思う。
座ってたソファーから立ち上がると、千聖と舞ちゃんがなっきぃの元に走り寄ってくる。
さっきまであんな争っていた二人も、寂しげだったなっきぃも、みんな楽しそうに笑ってた。

「…舞美ちゃんには敵わないなぁ」

私が同じことを言ってもこんな上手くはいかないだろう。
むしろもっとややこしくなる。
それか、無視。
そうなると私も拗ねて、さっき以上にぎくしゃく。
でも、たぶんそうなっても、舞美ちゃんがまた柔らかい雰囲気に戻してくれるんだろう。

「なに食べるー?」

「「なっきぃなに食べたい?」」

「え、早貴?えぇぇ…リーダーは?」



「ハンバーグ!」



その一言で行き先が決まる。

みんなが楽しそうに笑ってて、その中に私がいて、幸せだなぁとか思ったりして。



その中で一番楽しそうに笑ってる舞美ちゃんに、やっぱり敵わないなぁと思った。



end

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