・短編H・

□二人の体温
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悔しいけど、もものことは頭良いと思ってる。
まぁ一応大学行ってるし。
うちよりいっぱい勉強してるんだろうし。

だけど時々、もんのすごいバカなんじゃないかと思うのだ。



それはそれは、ベリーズの誰よりも。



―――――



「え、なにしてんの?」

「なにって…別に…」

時刻は深夜1時。
もう21時までのシンデレラではなくなったので、普通に仕事をしていた。
夜遅い時間までの仕事ももう慣れてきたところだ。
とっても眠いけど。
そう、眠いから、最初は幻覚かなんかだと思ったんだ。

「もも今日休みじゃなかった?」

多忙なこいつにとって貴重な休み。
そんな休みにうちの休みが被るとも限らず。
残念だったけどよくある話。
会えないねーって軽く話したりして、そこで終わった。
終わったと思ってたんだけども。

「…休み、だったけど」

「明日からまた仕事っしょ?」

「……」

なーんか、拗ねた子供みたいな表情。

「何時からいた?」

ぶっきらぼうに言った。
意識したわけではないけど、うちにも思うところはある。
いつも忙しいんだから休みの日くらい休めとか。
この寒い中ずっと外にいて風邪引いたらどうすんだとか。

「…別に、そんな前からいたわけじゃない」

「あー!!」

「っ、ちょ!ちぃちゃん今夜中!」

だってムカついたんだもん。
そんな言葉は飲み込んで。
手袋もしてないバカの手に、自分の手袋を握らせる。

「つけろ」

そう言って歩き出す。
待ってやらない。
ちょっと触れたももの手はすごく冷たくて、ムカつきもそうだけど、心配になった。
そんな心配を表に出せないのがうちなんだけど。

とか、思ってたら。

ぽーいって。
うちの前らへんに、うちの手袋が飛んできた。
数秒固まって、くるりと体の向きを変えて、足音を大きく鳴らして、ちょっと顔を引きつらせてるももの前まで歩く。
そして、怒った顔を隠さずに両ほっぺをぎゅーっとつねった。

「なーにすんだよぉお!!」

「ら、らっひぇ!」

「だってじゃない!人の好意を!」

そう言って解放。
手袋を迎えに行こうとしたところで、コートを摘ままれた。
もちろん相手は一人しかいない。

「……ちぃちゃんと手繋ぎたい」

ボソッと言われたその言葉は、ギリギリうちの耳の中に入ってきた。
もものあまりのバカさに、また叫びたくなった。
我慢できたのは、うちも少しは大人になったという証拠になると思う。

そう思いながらももの手を振り払って手袋を迎えに行く。
こいつに罪はない。

くるりとまた向きを変える。

泣きそうな顔してるもも。
ばーかと大声で叫んでやりたくなった。
でもしない。
その代わり、腕を広げる。

ももはそれを見た瞬間、顔を輝かせて走ってきた。

そんなももを笑顔で受け入れて、ぎゅーっとしてしまってるうちも相当バカなのかもしれない。



いや、バカなんだよね。



そう思いながらうちはももの冷えた身体を暖めることに専念した。



end

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