・短編H・
□クリスマス詰め合わせA
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「……なに浮かれてんの?」
恋人はサンタクロースかっての。
―――――
「あ、や、こ、これはっ…えと…クリスマス、だから…」
二人で歩く帰り道。
うひひ、とだらしなく笑うサンタ帽子を被った里保ちゃんにため息。
今朝学校に行く時は持ってなかったはずだ。
いや、隠してたのかもしれない。
もしかしてまた無駄遣いしたんじゃないだろうか。
「買ったの?」
「えー?えっと、そ、そんな感じ…?」
歯切れの悪い言い方に誤魔化されるかりんではない。
言いにくそうにするってことは、かりんが怒ること。
かりんが怒るのは、無駄遣いと……嫉妬だ。
「…貰ったんだ」
このポンコツ、何故か人気がある。
人見知りな性格が幸いして、後輩からはクールで格好良い先輩と思われていたり、同級生からはなつくと可愛いと思われてたり、先輩がいた頃は無条件に可愛がられてたり。
顔だけならかりんも負けてないと思う。
やっぱり性格か。
性格なのか。
「あ、でも小田ちゃんとかどぅーとかに貰ったわけじゃないよ?」
慌ててあげられた名前は、かりんが常々気をつけろと言ってる人の名前。
「どぅー」こと工藤さんはちょろいもんだと思うけどわかりやすいアタックが多い。
鈍感な里保ちゃんには効果テキメンだ。
「小田ちゃん」こと小田さんは危機感を覚えるほどに手強い。
絶対なんかしら企んでいる顔をしてる。
じゃなくて。
その二人から貰ったわけじゃないとすれば、誰から貰ったのかということだ。
「じゃあ誰に貰ったの?」
「知らない子!」
ドヤ顔をしてる恋人の頭をはたく。
「なっ、なんで叩くの!?」
「ムカつく!」
何がムカつくって知らない人から貰った物を嬉しそうに身に付けてるこの鈍感さに。
鈍感は滅びればいいと思う。
鋭い里保ちゃんなんて里保ちゃんらしくはないと思うけど。
だけど、あんたには恋人がいるんだってこと、ちゃんとわかって行動してほしい。
「ご、ごめん…」
「もういい」
里保ちゃんが歩くの遅いの承知で歩く速度を速める。
足をもたつかせながら慌てて追いかけてくるのも無視して、無言で歩いてると、突然視界が真っ暗になった。
「わっ、な、なに!?」
「佳林ちゃっ…待って…!」
目の辺りに手をあててみる。
もふっとした感触。
ニットみたいな。
頭に被らされてる。
「ぷ、プレゼント!」
その言葉に、それを外して確認してみる。
紫色のニット帽だ。
手編みではないけど。
いや、この人がそんな器用なことできるはずないから別にいいんだけど。
というか、すごく、嬉しいし。
それを抱き締めるようにぎゅっとしてから、後ろにいる里保ちゃんに振り返る。
「……気を付け!」
そんな号令に、里保ちゃんはピシッと立った。
そしてかりんは鞄からある物を取り出す。
不思議そうに見ていた里保ちゃんを睨むと、慌てて「見てませんよ」みたいな誤魔化し方をするものだから少し笑ってしまった。
「…プレゼント」
そして取り出したある物を里保ちゃんの首に巻く。
身長差のせいで少し巻きにくいと思ってたらさりげなく里保ちゃんがしゃがんだ。
こういうところはしっかりしてるんだから、と思いながら巻き付け完了。
ちょっと悔しかったので、仕上げでキスをくれてやった。
「っ、か、佳林ちゃん!?」
「手編みのマフラー」
「そ、じゃなくて!き、ききき」
里保ちゃんが喋り終わらないうちに回れ右をして歩き出す。
かりんだって恥ずかしいんだから。
慌てて追いかけてくる里保ちゃんの気配を感じながら、かりんは握りしめていたニット帽を被った。
end