・短編H・

□面倒くさい恋人
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「みや!好きって言って!」



「はぁ?」



いきなり隣に座ってきたと思ったら、何を求めてるんだこいつ。
いや、求めてるものはすごいわかりやすいけど。
だけど、どうしてそれを求めるのか。



「好きって言って?」



「なんでよ」



「いいから!」



あたしを追い詰めるようにそう言ってくるもんだから距離が近い近い。
離れろ、と頭を手でぐいーっと押してからもう一度理由を聞く。



「なんで?」



「なんでもなにも、ももたちは恋人同士でしょ?むしろなんで言ってくれないの?」



あ、これ面倒くさいやつだ。
ちょっと真剣だもん。
いつもの冷静さが感じられないもん。
なんというか、小さな子供が駄々をこねてる感じというか。



「いや、そんないっぱい言わなくていいじゃん。大事な時だけとか」



「今がその大事な時だよ!」



「大事な時は自分で決めるし」



ももが子供っぽい時は、あたしが大人になればいいのに。
そうは思ってるんだけど、どうしてあたしは子供の部分で張り合ってしまうんだろう。



「簡単だよ!好き!ほら!言って!」



「やだ」



「好き!好き!好き!」



「うるさい嫌い」



あ、やっちゃった。
そう思った時にはもう遅かった。
あたしの方を向いてた体は右向け右してしまって、小さな椅子の上で体育座り。
なにかを耐えるようにむんずと口を結んで。

面倒くさい。

いっつも思う。
この人面倒くさい。
なんでこんなに面倒くさいんだろう。



で、なんであたしはこいつが好きなんだろう。



「…嫌いじゃないよ」



渋々口を開く。
ももが目だけを動かして睨んでくる。



「…嫌いなわけないじゃん」



歯がゆい。
これから言うことを思うと、いーってなる。
だから、自然と止まってしまう前に言ってやる。



「嫌いになれる方法教えてほしいくらい、好きだよ…」



あー嫌だ。
熱い。
顔に熱が集まってきてる。
呼んでないっていうのに。
もう、嫌だ嫌だ。



「…好き」



「うん」



「好き」



「わかったって」



「好き!」



「あーもう!…あたしも好きだよ!」



「好き!好き!」



「っ、うるさい!」



「好き!好き!好き!」



好き連呼マシーンになってしまったももと、それを止める術を持たないあたし。
こうやってすぐ調子乗るところも、やっぱり面倒くさい。
右向け右してた体が、今度は左向け左して、またあたしを追い詰めるような形になってるのも面倒くさい。
そしてやっぱり近い。
近いとドキドキするから嫌なんだって。
伝えないと伝わらないけど、伝えたらまた調子乗ってわざと近くするに決まってる。
そういうところも面倒くさい。



「あ、みやっ」



ため息をつくと、しばらくは止まらないと思っていた「好き」が止まった。
拍子抜けしたのと、次はなんだという不安。
なに?と目だけで問う。
にんまり笑ったももに、聞く前から聞かなきゃよかったと思った。



「嫌いになれる方法なんて、どこ探してもないんだからね!」



聞こえた言葉はやっぱり面倒くさいもので。
この面倒くささっていうのは、あたしはこの面倒くさい奴が好きなんだぞって認識させられるもので。



「……心配しなくても探さないよ、面倒くさいもん」



だけどふと思うことがある。



この面倒くさい奴が好きで堪らないあたしも、もしかして相当面倒くさい奴なんじゃないかと。



end

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