・短編H・

□ご主人様とメイド
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かりんのご主人様は、なにを考えてるかわからない。



―――――



「っ、なに、するんですか…!」



「んひひ、うちのこと睨むの、佳林ちゃんくらいだよ」



部屋に入ってきたかりんをいきなり壁に押し付けて楽しそうに笑ってる。
でも、本当に楽しそうかと言われたら答えられない。
口元は笑ってるけど、目は笑ってないようにも見える。



「…なに?」



「なに、って…呼んだの鞘師さんじゃないですか…」



「違う。いつもの反抗的な目じゃなかった。なに考えてた?」



身長差的に必然的に見下ろされる。
冷たい目だ。
鞘師さんの手はかりんの肩を壁に押し付けたまま。



「なに考えてるんだろう、と…」



「…自分のことがわかんないの?」



「いや、鞘師さんが」



一瞬しかめられた顔が、驚いた顔に変わった。
初めて見たそんな顔にかりんも驚く。
こんな普通の反応もするんだ。



「知りたい?」



鞘師さんがにやっと笑う。
答えずにいると、だんだん距離を詰められて、気づくとかりんと鞘師さんの顔の距離は5cmくらいしかなくて。

鞘師さんの顔は無表情だった。

だけど、いつもの無表情とは違った。
なにを考えてるのか、少しわかった気がしたのだ。
恐る恐る口を開く。



「知って、ほしいんですか…?」



一瞬、悲しげな表情が見えたような気がした。
なんで「気がした」と言ったかというと、次の瞬間にはかりんたちの距離はゼロになっていて確かめようがなかったからだ。

でも、鞘師さんは確かに泣いてるような雰囲気で。

大人しくしてるつもりなどなかったけど、抵抗できなかった。
いや、しなかった。
鞘師さんを包み込むように両腕を背中に回す。



「いっ…!?」



すると唇に痛みが走った。
鞘師さんが離れてく。



「…なに考えてるか、うちが教えてほしいくらいだよ」



そう言って背中を向けてしまった。
その背中は、いつもとは考えられないくらい小さく見えて。



噛まれて血が出た唇を抑えながら、かりんはその背中に手を伸ばした。



end
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