・短編H・

□痴話喧嘩の被害者たち
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「舞ちゃん!部屋代わって!」



「はっ?どしたの愛理急に」



「いいから!」



「わ、わかったわかった」



愛理が千聖と舞の部屋に乗り込んできて、舞とそういう会話をしたのは約5分前。
舞が珍しくなんの文句も言わずに愛理の言うことを聞いたのは、それほど愛理の勢いがすごかったからだろう。
ていうか千聖も、どう接していいのかわからないままこの5分間を過ごしてるわけだし。



「…愛理、さん…?」



部屋に入ってきた時のまま立ち尽くしてる愛理に声をかけてみる。
肩がびくってなって。
それが定期的に何回もなって。
あれ?もしかしてこれは…と思って近づいて顔を覗きこんでみる。



「っ、ふぇぇ…!」



な!い!て!る!
顔をぐしゃぐしゃにして、愛理が泣いてる。
あわあわし始める。
なに、どうすればいい?どうして愛理は千聖じゃなくて舞と部屋代われって言ったの!?



「どっ、どーどー!」



「馬じゃっ…ないっ…!」



睨まれる。
いつもは見ない強気愛理だ。
これは勝てない。
さて困ったどうしようか。



「愛理、どうした?舞美ちゃんと喧嘩でもした?」



とりあえずここから始めよう。
舞美ちゃんと二人部屋の愛理が、いきなり千聖たちの部屋に乗り込んできて、部屋を代わってくれって言ったら、そりゃ舞美ちゃんと喧嘩でもしたのだろう。
そうとしか考えられない。
だから千聖の役目は、おそらく二人の仲直りの手助けといったところなんじゃないか。
やばい、千聖頭良い気がする。



「…ひくっ……舞美ちゃんが悪い…」



「舞美ちゃんがなにしたの?」



「……」



「浮気?鈍感?天然?雨女?馬鹿力?」



全部の質問に首を横に振られる。
口は閉じたままだ。

プチってなった。

千聖は短気だ。
特に愛理に対しては。



「喋んなきゃわかんないかんね!仲直りしたいなら理由くらい教えろ!」



いきなり大きな声を出した千聖に驚いた様子の愛理。
千聖を見て、うだうだめんどくさいと思われたことに気づいたようで、渋々口を開いた。



「……認めないの…」



聞き漏らしそうな小声。
なんとか聞こえたけど、こんな様子で喋られたら堪んないと思って大きめに「え!?」って言ったら、ようやく普通に聞ける程度のボリュームになった。



「舞美ちゃんが…あいりの方が舞美ちゃんのこと好きって言ってるのに……そんなことないって、認めないの…」



まず、聞かなきゃよかった、と思った。
なんか、色々冷めてく感じがあって、ある意味これ血の気が引いてくって感じなんじゃないかとか思って。
とりあえず愛理の後ろに回る。
愛理の頭の上にハテナが浮かぶのがわかる。

そんな愛理に構わず、千聖は本気でヘッドロックを決めた。



「いだだだだ!!」



「出てけ!!今すぐ出てけ!!舞ちゃんを返せ!!この馬鹿愛理!!」



「わわわわかった!わかったから!ごめんてば千聖ぉぉおお!!」



愛理の頭を解放する。
逃げ出すように愛理が距離をとる。
なにか言いたそうだったけど、もう一度戦闘体制に入ってみせると慌てたように出ていった。

千聖はベッドに仰向けに寝転がる。



それからすぐに怒ったように乱暴にドアが開かれて、舞ちゃんが戻ってきた。



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