・短編I・

□リリウムの続きのような話
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――私たち、800年前は親友だったのよ。



嘘なんてついてない。
私たちは『親友』だったのだ。
手を握り、抱き締めて、キスをし、体を重ねる、親友だったのだ。



リリーと出会った時、私の胸には種が蒔かれた。
なにかが出てきそうな、小さな種。
それはリリーに対する愛情を水代わりとし、どんどん成長し、やがて小さな花になった。

その花が綺麗に咲き、もう枯れるしかないのかと心配した時だった。

リリーはあまり知識がない。
自分から知ろうとする欲がないように見える。
周りに流されて、それについていく。

そんなリリーの無知を、私は利用した。



「ねぇリリー」

「どうしたのスノウ?」

「あなた、親友がいたことはある?」

その問いかけに、リリーはきょとんとしてから顎に手を当てた。
考え込むような仕草の末、返ってきたのは予想通りの答えだった。

「ないわ」

なにかを少し諦めたかのような微笑み。
それすらも愛しいと思ってる私には、もうこの子を否定する言葉なんて持っていない。

「そう…。じゃあ私たち、『親友』にならない?」

私の申し出に虚を付かれたような顔をしたリリーに、少し不安を覚えた。
だけどその必要はなかった。
すぐにその表情はなにかを諦めたような微笑みではない可愛い笑顔になり、頷いた。

私は一呼吸置いて口を開く。

「リリー、親友は何をすべきか、知っている?」

なんて答えられようと、リリーは私に流される。
そんな確信に似た気持ちを持っていた。

結局返ってきた答えは、期待を上回るものだった。

「なにか、特別なことをするの?」

「その通りよ」

焦ってはやく返しすぎてしまったかもしれない。
そう思いながらも笑みは絶やさず、今度は焦らずに口を開く。

「それがなにか、リリーは知っている?」

「知らないわ…」

「そう。では、教えてあげる」

その日、私たちは初めて手を繋いだ。



―――――



それから抱き締め合うことを教え、キスを教えた。
最初は戸惑っていたけれど、リリーはすぐにそれを受け入れた。
私の心の花は綺麗に咲き誇っていた。

それでも、私はまだ物足りない想いをしていた。

「スノウ、どうしたの…?」

「ええ…」

物足りない。
だけど、本当にこれ以上踏み込んでいいのか。
親友同士だからといって、いや、むしろ親友同士なら絶対やらないことだ。
もしリリーが誰かに口外したら。

「…スノウ」

私の部屋で二人きり。
呼ばれて振り向くと、キスをされた。
私が教えたキス。
触れるだけのキス。

「元気ない…?」

元気のない微笑みを浮かべてるのはどっちだ。
そんな言葉が浮かんだけれど、この表情をさせているのは自分だと思うと、またなんとも言えず嬉しい。

白いベッドに腰かけてるリリーに、お返しのキスをする。
そして抱き締めて、また罪悪感に駆られながら花に水をやる。
最近この花は、枯れずにいるので精一杯だった。

「リリー…」

「なにか悩みがあるなら、聞かせてほしい」

「…」

「私たち、親友でしょ?」

その言葉が更に私を追い詰めるとは知らずに。
だけど、それは、私に今さら後戻りはできない、と示すのと同じ役割も担った。

「…ねぇ、これは」

心臓の音が大きすぎて、自分の声が聞こえないような錯覚に陥る。
それでも実際リリーは言葉の続きを待っていて。
もう一呼吸置いて、私は声を出す。

「本当に限られた人としかやらないことなのだけれど」

リリーの肩に手をやって、軽く押す。
それだけで仰向けになるリリー。
私のことを微塵も疑っていない。

「…受け入れて、くれるかしら」

首筋にキスをして、怖くなった。
震える体と声。
リリーの胸に頭を押し付ける。

私は、許される言葉を待っていた。

「スノウ、私、うれしいの」

「え?」

黙っていたリリーが口を開く。
聞こえてきた言葉に、また心臓の音が大きくなった。
それは確実に、良い意味で。

「物わかりの悪い私に、こんなに親切に色んなことを教えてくれるの、スノウだけだもの」

リリーの声は笑っていた。
本当に嬉しそうに。

私は吹っ切れた。
なにか箍が外れたと言った方がいいのかもしれない。
目の前のこの子が愛しくて堪らなかった。


行為の後、恋人と親友の違いってなぁに?と聞かれた。
一瞬すごく動揺したけど、すぐに落ち着いた。
私はもう、狂っていたのかもしれない。

優しく微笑んで、「恋人と思っているか、親友と思っているかの違いに過ぎないわ」と答えた。



その次の日、リリーは記憶を失った。



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