・短編I・

□余裕いっぱいいっぱい
1ページ/1ページ




『…いっしょの部屋がいい』

地方への移動時。
隣に座ってたみやにそう言われた。
ももはキョトンとしながら頷いた。
付き合ってから、みやは結構素直に愛情を表すようになった。

そんなことがあって同じ部屋。
いつも一人部屋を望むももに、メンバーから訝るような視線を向けられたけど、移動の時に話してたことがまだ一段落ついてないんだ、と説明したら納得してくれたようだった。
みやはメンバーに捕まる前にとっとと部屋に向かっていてちょっと薄情だとは思ったけど、なんだかそういうのを許せちゃうのがみやなのだ。

「よいしょ、っと」

ドアストップで完全に閉まるのを止められていたドアを開ける。
まだそんな暗くないからかつけられていない電気。
薄暗いのはあまり好きじゃないので電気をつける。

「みや」

姿が見える前に声をかける。
中にいることは知っていたから。
だけど、どうしたことか返事はない。
中に入りきってから理由がわかった。

「疲れてたの?」

聞いてない本人にくすりとしながら言う。
規則正しい寝息。
荷物を地面において、すぐ寝てしまったみたいだった。
ピッとクーラーをいれる。
そしてみやに布団をかけた。

「きれーな顔」

小さい頃から思ってた。
自分とは全くタイプが違う人。
好きになったのはいつだっけ。
わからないくらい前のこと。
いつの間にかももの心に住んでいたその想いは、あるのが当たり前になって。
でも、あるけど、外にでることはなかった。
外にでることなく、来た時と同じようにいつの間にか消えてしまうものなんだと思ってた。

だけど実際はそんな簡単なものではなかった。
その想いはどんどん大きくなって、扱いきれなくなって、外に出た。

そこで、ももと同じ、みやの想いに出会った。

「結果オーライだったけどさぁ…」

今思い出してもひやひやする。
みやにまったくその気がなかったら?
そしたら、どうなってたんだろ。
この期限付きの活動は、なにかいろいろ残って終わってしまっていたかもしれない。
あれでよかった、そう思える。

「知ってる?独り言ってハゲるらしいよ」

「…狸寝入りってタチ悪いよ」

寝ているはずの人からの声。
本当子供っぽいんだから。
にやにやしてそんなこと言ってくるものだから、寝顔に対する気持ちを返してほしくなった。

「で、何が結果オーライ?」

やっぱり聞いてますよね。
うげ、って顔がもろに出てたと思う。
みやがそれを見逃すはずない。

「いいじゃん別に」

「よくない。聞きたい」

諦めてくれる気はないみたい。
昔は見せることのなかった執着を見せるようになった。
これが恋人だ、と言われたら嬉しいけど、自分に都合の悪いことに執着されると少しビミョー。
かといって、キラキラしてる目はももを逃すつもりはないみたいだ。

「……うるさい」

でもでも、ももだって狸寝入りされて、独り言聞かれて、みやにされるがままされてやるつもりもない。
都合の良いことに、みやはベッドに仰向けになってる。
抑え込むのは簡単。

「なにさ」

「みやがしつこいから」

「から、なに?」

本当にわかってないのか。
恋人で、この状況で、なんにもわかんないの?

「ばかなの?」

「はぁ?」

ムッてした。
ももも、みやも。
そういえば、ちっちゃい頃一番喧嘩してたのはみやだったな。
なんて考える余裕があるのは、ももが上にいるからか。
いや、違うか。

「なんであたしがバカってことになんの?」

黙ったままでいると、みやが言葉を紡いだ。
怒り顔はちっちゃい頃と変わってない。
それに思わずぷっと吹き出す。

「なに笑ってんだ」

みやが不満そうな顔をしたけど、ももにつられたように少し口許が緩んだ。
ちっちゃい頃と変わったのは、お互いに『余裕』なのかもしれない。

「ま、でも下にいるのに余裕って、ちょっとムカつくから」

「また独り言?まじハゲっ…ももっ…!?」

首筋にキスを落とす。
こうされたらみやの余裕がなくなることは知っていた。
でもそれは、昔とは比べられない。
ももは知らないから。
付き合うより前の、恋人という立ち位置にいるみや。
ももが知らないみや。

悔しい、とは、独り言でも口に出してやらない。

「部屋、入ったらすぐ盛るって…!」

「いっしょの部屋がいいって、誘ったのはみやでしょ?」

「な、別に誘ってないし!」

「はいはい」

付き合ってから結構素直になったと言っても、こういう肝心なとこでイマイチ。
それを素直にさせてあげるのは、恋人の仕事ってことですかね。

「んっ…ふぁ…!」

息継ぎさせないように追い込む口づけ。
舌を絡めて、歯列をなぞって、みやがなんにも考えられないようにする。
そこが第一段階。
そして次。

「も、も…」

「んー?」

潤んだ目にあがる息。
いつも以上に色っぽいみや。
こちらからも熱っぽい目で見てあげるとあら不思議。

「もも、ちょーだい…」

ももの首にぎゅっと抱きついて、ももを奮い立たせる言葉。
小さい声だけど、確かに届いたそれは、ももを勢いづけるには充分だった。

「いっぱいあげるよ」

「んっ…」

「みやが嫌って言っても、やめてあげないから」

耳元で囁くと、みやは口をぎゅっと結びながら、少し非難がましい視線を向けてきた。
小さく舌をべーっと出す。

ももが知ってる、いっぱいいっぱいのみやは、頬を少し膨らませて「バカ」と言った。



end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ