・NOVEL(短編)・

□ごまかし
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『姉妹です!』
『花音は・・・お姉ちゃん!』


自分に対する紗季の言葉で真っ先に思い浮かぶのがこれ。

エッグオーディションの時からこういう関係だから仕方ないと思う。
でも仕方ないと思う一方で、少し嬉しい気持ちもある。

だって紗季には、エッグやスマイレージの中で一番好かれてると自負しているし。

紗季の中で、『福田花音』は間違いなく特別だ。

しかしその特別は、私が欲してる特別ではない。
そして、その特別が私が欲してるものになることはないのだろう。



「絶対ないよね。」



「へ?何が?」



思わず口から溢れ出た言葉。
すぐ隣にいる紗季に聞こえないはずはなく、不思議そうな顔をして問いかけてくる。



「んー・・・なんでもない。」



私は特別焦った様子も見せずに答える。
どうせ私が告白でもしなければ気付かれない想いだ。
焦る必要はない。
というか、もうだいぶ慣れてしまった。



「えー、教えてよ。」



軽く流した私に、不満そうな顔で抗議する紗季。



「・・・しょうがないなぁ。じゃあちょっと耳貸して?」



もちろん教える気などない。
いつもの『ごまかし』をするだけだ。



「なに?」



微塵の疑いもなく耳を向ける紗季に笑みが零れる。

そして紗季の頬にキス。



「はい、終わり。」



笑ってそう告げる。



「えぇー?全然意味わかんないし。」



別に頬へのキスなど問題ではない。
そのくらいのことなら数え切れないくらいしてる。
その証拠に紗季も全く気にしてる様子などない。



「わかんない?」



「わかんない。」



さっきからずっと不満顔の紗季。
『サキチィスマイル』はどこいったんだろうか。



「じゃあ私、さっきなんて言ったんだっけ?」



さっきというのは、私が言葉を零した時のこと。
私はこれを聞いた時点で、次に紗季がなんて言うかがわかってる。



「・・・・・・忘れた。」



ビンゴ。
これが私が覚えた『ごまかし』の作業の一連。
頭が少し弱い紗季を相手にするのなんて簡単だ。


一番難しいのは、この想いをセーブすること。

この関係を壊すのは心惜しい。
結構気に入ってるのだ。
こうやって簡単に紗季に触れられる関係を。
一つ悩ましいのは、もっと触れたいという衝動をだんだん抑えきれなくなってきてること。


それについては、また新しい『ごまかし』を考えることにしよう。


こうしてどんどん進化していってる『ごまかし』の、これまでの経過を思い出して私はまた笑みを零した。



end

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