・短編E・
□睡眠中の駆け引き
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「暑い・・・」
ミーンミーンミーンと聞こえてくる蝉の声に目が覚める。
部屋の中はとても気温が高く、さらにじめじめとしていて自分の体に汗が浮かんでるのがわかった。
「んーっ・・・!」
体を起こし伸びをして、枕元に置いてあったタオルで体を拭く。
服はまとっていないので拭きやすい。
拭き終わってから隣に寝ている舞美ちゃんに視線をやると居心地悪そうな寝顔。
「はは、汗っかきだ」
舞美ちゃんの前髪は汗のせいでおでこに張りついていて、それを指で避けてやり持っていたタオルで軽く拭いてやる。
するとしかめていた顔は通常に戻り、少し涼しげだ。
「・・・・・・綺麗」
何年見てても飽きない顔。
本当に美人で綺麗で、思わず頬に触ってしまう。
それでも起きない舞美ちゃんにちょっとしたイタズラ心。
顔を近づけて、まずは触れていた頬にキス。
次はまぶた、おでこ、鼻、最後に唇。
全て触れるだけ。
そしてまた眺める。
「あ・・・・・・」
眺め始めると同時に思わず声を出してしまった。
それを不自然に思われないように、続けて『もう11時か』と口に出す。
誰に対してそんな工作をしてるのかって、この部屋にはあたしと舞美ちゃんしかいない。
しかも、あたし達は二人とも起きているのだ。
大方、あたしが触れた時に起きてしまった舞美ちゃんは、起きていると伝えるタイミングを失ってしまったんだろう。
そしてあたしがキスをしたものだから、済ましてた顔は赤くなってしまって。
―――バレちゃったんだよね
「可愛いなぁ・・・」
今もたぶん、心の中はパニックであろう舞美ちゃんを思うと可愛くて仕方がない。
さて、どうやってからかってあげようか。
悩んだ末に舞美ちゃんの上に馬乗りになる。
その間もじっと表情を眺めていると戸惑ってるのが手に取るようにわかった。
まったく、嘘がつけない人なんだから。
「ふふっ」
笑いながら指を首筋に滑らす。
ピクッと反応した舞美ちゃんは、もうそろそろ限界で起きる振りをするんじゃないかな。
その前に、先手を打とう。
「舞美ちゃん、今起きたら止められないなぁ」
ほら、これで舞美ちゃんは起きれなくなった。
わかりやすく硬直した体に、更に下へと指を滑らして。
それにいちいち反応してしまう舞美ちゃんはもう誤魔化せないほど動いちゃってることに気づいてないのかな。
もうそろそろ、潮時だよね。
「あれ?舞美ちゃん、起きてる?」
お腹の底から込み上げてくる笑いを抑えながらそう聞くと、おそるおそるといった様子で目を開ける舞美ちゃん。
引きつった笑顔の舞美ちゃんに、さっきの言葉は全部聞こえていたことを確信。
「あ、愛理・・・おは、おはよ・・・」
「うん、おはよ」
「あ、暑いね!クーラーでもっ・・・」
あたしから逃れるようにクーラーのリモコンに手を伸ばす舞美ちゃん。
逃がしてなんてあげない。
微笑みながらその手を捕まえてベッドに押さえつける。
「舞美ちゃん?聞いてたよね?」
「な、なっ、ななな何をかなっ」
「あたし、『今起きたら止められないなぁ』って、言った」
そう言って微笑んだあたしは、舞美ちゃんの目にどう映ってるんだろう。
とりあえず、もうどうしようもないことはわかってるのかな。
『はぁぁ〜』と気が抜けるような声を出した舞美ちゃんにキスをする。
好きな子を苛めたくなるってこういう気持ちなんだろうなぁと、また一つあたしは賢くなった気がした。
end