・短編E・

□期待できる反応
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年に二回のハロー全体のコンサート。
それの午前リハーサルが終わり、キョロキョロと辺りを見渡す。



最近、お気に入りの後輩がいるのだ。



「いた・・・さやまるー!」



「あっ、鈴木さん!お久しぶりです!」



鞘師里保。
モーニング娘。9期メンバー。
中学二年生の14歳。



「久しぶりー!また背伸びた?」



「伸びちゃいました・・・ガタイもまた良くなって・・・」



ただ今成長期。
見る度見る度大きくなっていて、本人はそれが少し嫌らしい。



「大丈夫だよ、さやまる成長しても可愛いもん」



「えー?んひひひ」



あたしにだんだん慣れてきてくれたのか前よりよく笑うようになった。
笑い方はすごく変だけど。

それでも、とてつもなく可愛い。



「お弁当、一緒に食べようよ」



「えっ、いいんですか?」



「うん、今ならもれなくサイダーがついてくるよー?」



あたしの誘いにパァっと輝くさやまるの表情に癒されながら、缶に入ってるサイダーをかざす。
サイダー大好きなこの子を誘うためにわざわざ購入してきたものだ。
自分の必死さに呆れる。



「今っ、お弁当持ってきますっ」



見るからにテンションが上がってるさやまるはドタバタと方向転換をして走り出す。
それを笑って見送ろうとするといきなりさやまるが視界から消えた。



――ドタッ



振動と共にそんな鈍い音。
慌てて視線を下の方にずらすと、予想通り盛大にコケてるさやまる。



「・・・だ、大丈夫っ?」



床に突っ伏してから3秒。
未だに動かないさやまる。
驚いて固まっていたけど、心配で動き出すあたし。

うつ伏せにでろーんと伸びてるさやまるの横に膝をついて様子を伺う。



「さやまる?」



呼び掛けながら肩を叩く。
よく見るとその肩は小刻みに震えていて。
もしかしてどこか怪我して、痛くて泣いてるんじゃないかと焦った瞬間、大きな笑い声が聞こえてきた。



「んふっ!うひひひひひ!!!こっ、コケたっ!!んひひひひ!!」



明らかにさやまるの変な笑い声。
そして、うつ伏せて伸びきっていたいた体は丸まって、笑いに耐えきれないというようにお腹を抑えてる。
どうやら怪我はないようだ。



「んふっ!すいません・・・!」



笑いを堪えながら謝ってくるさやまるの姿はやっぱり可愛らしくて。
心配してたのも忘れ、つられてあたしも笑いが込み上げてくる。



「ぷっ!あはははっ!さやまるー!」



転がって笑い合うあたしたち。
そんなあたしたちの周りになんだなんだ、とハロプロメンバーが集まってくる。
道重さんや茉麻ちゃん、その他諸々の鞘師ウィルスに感染したメンバーも集まっている様子に、良からぬ企みが頭をよぎった。



「どうしたの?」



道重さんの問いに、その企みを実行しようと決心。
まず転がっていたさやまるを抱き寄せて、キョトンとしてるその唇に触れるだけのキスをした。



「・・・あたしのさやまるが、転んじゃって」



『あたしの』を強調して言う。
ショックを受けたような鞘師ウィルス感染者たちに気分が良くなり、ニコッとさやまるに笑いかけると赤くなってしまった。
許可を得てない口づけにこの反応、期待してもいいのかもしれない。



「ね?」



「うぇっ・・・えっ・・・あ・・・・・・はい・・・」



そう言って頷いたさやまるに嬉しくなってさらにギュっと抱き締める。

その瞬間響いた感染者たちの悲鳴は、今まで聞いたどんな音よりも大きくあたしの耳に届いた。



end

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