・短編E・

□ズルい大人
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「・・・・・・言いたいことあるなら・・・言えばいいのに・・・・・・」



昼休み。
ちぃと二人で昼食をとっている時にいきなり舞美が教室まで来て。
驚いたけど特に反応しないでいると、今度はズカズカと中に入ってきてあたしの横に立つ。
そしてその勢いに反して、小さく、たぶんあたしとちぃ以外には聞こえないような声でそう言った。



「・・・・・・別にない」



「嘘だ・・・」



「なに?喧嘩してんの?」



能天気な声でちぃが口を挟む。

別に喧嘩してるわけではない。
原因はあたしだ。
あたしが子供だから舞美を避けてただけ。
舞美は大人だから、それを知ってるから、こうやって来てくれたんだ。

わかってる。



「何が不満なのか、言ってくれなきゃわかんないよ・・・」



わかってるけど、嫌なんだ。

大人な舞美にあたしが拗ねてる理由を話すのが。



「だから、別に不満なんてないってば」



「だ、だったらなんで電話出てくれないしメールも返してくれないの!会っても素っ気ないし!」



舞美の声が大きくなって、ガヤガヤしていたクラスが静かになる。
あたしも舞美も、比較的注目を集めるタイプな上に付き合ってるので普段から注目の的だけど、喧嘩してるところなんて見せたことなかったので珍しいんだろう。



「ちょっと・・・違うとこ行こ」



「や、やだ!」



「は?」



「理由話してくれるまでここ動かないもん!」



なんだこいつ。
この理不尽な感じ、全然大人なんかじゃない。
あたしと同じ、いやそれよりも子供っぽいじゃないか。



「なんでっ、動けばいいじゃん!ここにいると迷惑じゃん!」



「そうやってみやはいっつも人の目気にしてる!」



「っ、はぁ!?なにそれ!舞美が気にしなさすぎなだけじゃん!」



「だってだって!手もあんまり繋いでくれないし!あたし校内でももっとみやとくっついてたいのに!」



舞美の言葉で、一気に顔に熱が集まる。
こんな人前でこいつは何を言ってるんだ。

だけど、それよりも、もっと他に言いたいことがあって。



「そんなん恥ずかしいんだからしょうがないじゃん!それより舞美だよ!」



「なにが!」



「あたしに触りたいとかそーゆーこと言ってるけど結局誰にでも優しいじゃん!あっちに良い顔こっちに良い顔って!本当にあたしのこと好きなわけ!?そんなんだから!他人に優しくしてる舞美なんて見たくないからあたしは避けてんだよ!本当に好きなら行動で表せバカ!!」



言ってやった。
あたしが拗ねてる理由。
子供すぎて、なんか、バカみたいで言えなかった。
大人な舞美には言えなかったけど、今の舞美にならなんでも言える気がして。

言い過ぎてしまった、と後悔したのは数秒後。



「うん、じゃあ行動で示すね」



そう言って、無駄に綺麗ににっこり笑う舞美。
後悔した訳はそういうことだ。
舞美に強く言い過ぎてしまった、ではなく、舞美の思い通りのことを言い過ぎてしまった。



つまり、こいつ、確信犯だ。



避ける術なんてない。
肩をグッと抑えられて、顔をスッと近づけられて、唇同士が触れあって。
押し返そうにも相手は馬鹿力。



「あらー、もう仲直りだねぇ」



ちぃの能天気な声が聞こえた。
クラスメイトの黄色い声が耳に痛い。



「仲直り、だね!」



数秒後、キスを終えてぬけぬけとそう言ってくる舞美。
言いたいことがたくさんありすぎて容量オーバーしそうだ。

だけどとりあえずこれが言いたい。



「だっ、騙すなっ!」



なんだその無駄な演技力。
完全に騙された。
舞美は最初からあたしを騙すつもりで来てたのに。



「うん・・・それは、本当にごめんね・・・でもね?みや何も言ってくれないし、もうこれしか方法がなかったんだ」



シュンとしてそう言う舞美に、当然これ以上強く言えるはずもなくて。

あー、もう、いいか。

そんな気持ちになって、大きいため息を一つついてから舞美の手をとって歩き出す。



「うぇっ?みや?」



「・・・・・・もう理由言ったから動けるでしょ」



「え、でももう話すこと・・・」



「さすがにこんなに人いるのに気にしないってのは無理」



人の目気にしないって難しいけど、舞美はあたしの要求を受け入れたんだから。
あたしだけなにも変えないってのはズルいと思うし。



「いっ、イチャイチャしてくれるの!?」



「っるさいな!!」



だけど本当、どうやったらそんな風に完全に人の目を気にしないことができるんだろうか。

顔の熱さを感じながらそれを考えるけど、答えなんて出るはずもない。



クラスメイトの視線に耐えながら、残してしまったお弁当のことを思った。



end

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