・短編E・
□恋人は変人
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衣梨奈の恋人は変だ。
実は、モーニング娘。で一番変人という言葉が合ってるんじゃないかってくらい変だ。
「これ、なん?」
「誕生日プレゼント。あ、おめでとう」
そう言って差し出されたのは結構大きめの段ボール。
よくここまで持ってこれたな、と思ったけど車だから持ってこれるっちゃ持ってこれるのか。
まぁ、それは置いといて。
問題は中身だ。
「ありがと・・・開けていい?」
「うん」
言葉からはわかりにくいけど、早く開けてくれと言わんばかりに目を輝かせてる里保。
そんな様子が子供みたいで可愛い。
そう思い、自然に微笑んでしまったけど、いったいこれはなんなんだ。
包装紙を取って、開け口に貼ってあったガムテープを剥がす。
ドキドキしながら蓋をあけると、そこにはびっしりとサイダーが詰まっていた。
詳しい内訳は500mlの色々な味のサイダーが12本。
「えっと、これは・・・」
「サイダーの詰め合わせ!」
いや、わかる。
それはわかるのだ。
だけどわからない。
里保にあげるプレゼントなら確かにこれが最上級のプレゼントになるだろう。
だけどだけど、そのプレゼントを渡す相手は衣梨奈なのだ。
「うん、その・・・」
「あのね、これが普通のでしょ?で、これが塩サイダー。こっちは夏みかんでこっちは夏みかんとちょっと違うみかん。これがグレープで、これがいちごで、これがりんご。あとレモンと白いサイダーと梨と桃と梅!」
楽しそうに説明する里保。
そんな里保を見ていたら、別にこのプレゼントが少しおかしいことなんて気にしなくてもいいかという気分になる。
「これの味はね、最初炭酸がしゅわーって来るんだけどだんだんみかんの味が広がって、最終的には、なんか、ふわぁっていうか、なんかそんな感じになるんだけど、そしたらまた飲みたくなってね、また飲むと今度はじゅわーってなって」
でも、里保には悪いけど、この熱心な説明はどうすればいいのだろう。
真面目に聞くほどサイダーには興味がないし、だからと言ってこんなに楽しそうに話してる里保を止めるのもなんだか気が引ける。
とりあえず止まるまで待ってみよう。
KY生田、空気読んでます。
「とりあえず、飲んで見よっか!」
・・・・・・ん?
今この人、なんて言った?
「えっと・・・なん?」
「えりぽん一人じゃ良さがあんまりわかんないでしょ、だから一緒に試し飲み」
そう言って目を細めて笑う里保は、まったく悪気なんてないようで。
自分の行動が少しおかしいこともわかってないみたいで。
「えー、里保、ちゃんと教えられんやろ」
「教えられるよ!サイダーなら出来るよ!」
「うーん、じゃあ早くやってみよー」
込み上げてくる笑いを抑えながらそう促す。
そうだね、と言いながらどう見ても衣梨奈よりわくわくしてる里保。
衣梨奈の恋人はモーニング娘。の誰よりも変人かもしれない。
だけど、そんなところが何か惹かれる原因なんだと思う。
なんの戸惑いもなく、先にサイダーを飲み始めた里保を見て、今度はとうとう吹き出してしまった。
end