・短編E・

□虚しい束縛
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最近会ってないなと思うと絶対来る。

あたしの心の声を盗聴してるんじゃないかってくらいバッチリなタイミングで。

そしてちょうどさっき、あたしはそう思ったのだ。



―――――――――――――



「おじゃましまーす」



そんな声と同時にドアが開かれる。
夕飯後、春休みの宿題を片付けるために机に向かっていたあたしは、やっぱりなとため息を一つついた。



「ふぅ」



バサッと大きな物音。
大方あたしのベッドに倒れこんだんだろう。
そしてきっと酔っ払ってるに違いない。



「梨沙子ぉ、なにしてるー?」



呂律があまり回ってない。
予想通り酔っ払ってるみたいだ。
そしてこのまま大した会話もしないまま寝ようとするんだろう。



「・・・・・・宿題」



「あー・・・まだこーこーせーか・・・」



ほら、だんだんと声に眠気を含む割合が多くなってる。
こういったみやの自由なところは好きだ。
だけど、せっかく久しぶりに会ったのにこのまま寝かせるつもりなんて更々ない。

そろそろ動くか、とペンを止めると後ろからガサガサと物音が。
振り向く前に、酒くささが混じったあたしの好きな匂いに包まれた。



「はい、たんじょーびおめでと」



そんな優しい声が耳元で聞こえ、若干フリーズ。
するとその内にまたみやはベッドに戻ってしまった。

残されたのはあたしの首に緩く巻かれた、普通は腰に巻くベルト。



「これ・・・」



「梨沙子に似合いそーだからさぁ、買ったら、ほら、君たんじょーびなの思い出して」



「ありがと・・・・・・けど首に巻くな」



少しの注意はしたけど、嬉しさの方が勝る。
買った時は覚えてなかったにせよ最終的には思い出してくれた。
自由なみやを少し縛りつけることが出来たんだ。



「みや」



だけどそのくらいの束縛で満足するようなあたしじゃない。
普段自由にさせているんだから、こうやってたまに会う時くらいは許してほしい。

そんなことを思いながらベッドのみやに近づく。
仰向けのまま目を瞑ってるみやの両腕を一つにまとめて、貰ったベルトでキツめに縛る。



「・・・・・・マジで?」



「マジで」



あたしの行動に、少し酔いが覚めたようなみや。
縛られてる自分の両手を確認してから呆れたようにあたしを見る。



「こんなガッチリ縛んなくてもあたし逃げないってば」



「いつもふらふらしてる人に説得力なんてないよ」



「だって梨沙子なんも言わないし」



「みやは女の子の気持ちわかんないもん。てか、往生際悪い」



うるさい、と小さく呟いて唇を塞ぐ。
口の中にお酒の味が広がる。
少し離れると、荒い息遣いの合間に文句を言ってくるみや。



「っ・・・女の子の気持ちわかんないって、あたし女の子っ・・・」



「・・・・・・とりあえずみやはわかんないよ、あたしの気持ち」



歪んでるあたしの気持ち。
みやの自由なところが好きだから、それを完全に抑えようなんて思えない。
だけど、みやを縛りつけたいと思う気持ちも抑えられない。
そんな気持ちがいろいろ混じって結局こんな風になってる。
みやに説明してもわからないんだろう。

だけどいい。
あたしがわかってれば。
あたしのただの自己満足だから。



別に、虚しくなんて。



end

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